2-88【閃きは突然に】



◇閃きは突然に◇


 翌朝……俺が起きるよりも早く、父さんが俺を起こしてくれた。

 つまりだ、何だかんだで俺も眠れたらしい。


「起きろ、ミオ……朝だぞ?」


「う……うぅん」


「ほらレインも、いつまで弟に甘えているんだっ……起きなさい」


「うぅぅぅん~」


 子供二人を起こすルドルフは、明らかにいい父親だろう。

 例え今、酒の匂いがひどかろうとも。

 酔っぱらって記憶をなくすような男でなくてよかった。


「……父さん……おかえり、おはよう」


「はははっ、ただいまミオ。お前も、無事についていて良かったよ。本当は迎えてあげたかったんだけどなぁ!」


 ガシガシと俺の頭をでる。

 痛ってぇよ。でも……まぁいいや。

 こういうのも、悪い気分じゃないからな。


「お父さん……おはよ……って!わ、私」


 ああ、気付いたんだねレイン姉さん。

 ぐっすり眠れてよかったよね。

 ほほに枕の跡、ガッツリ残ってますけど。


「あわわ……お父さんが来る前に、お部屋に戻ろうと思ってたのにっ」


 遅いって。それに父さんが夜中に帰って来てたらどうするつもりだったの?

 戻って一人で寝られた?答えはノーでしょう?


「……お部屋に戻りますっ!!」


 はいはい。また後でね。

 残された俺と父さんは。


 スンスン……と鼻を利かせる。


「……父さん。お酒の匂いがひどいけど……大丈夫?」


「ん?ああ、平気さ……ちょっと多く飲まされてな、街は美味い酒が沢山で、大変だよ」


 いやいや、そっちじゃなくて……契約の方だっての。

 う~ん。でも、このままじゃあ流石さすがに印象悪くなるよな。


 きっと、死ぬほど呑まされたんだろうな。

 それつまり、失敗させたい奴もいる……反対派もいるって事だろう。

 酒を死ぬほど呑ませて、失敗させようとしたんだろうな。


 どこにでも、過激な奴らはいるって事だ……【クロスヴァーデン商会】も、ミーティアさんのお父さん単独ではないって事か。


「父さん……少しこう。余りにも臭いがひどいから、このままじゃいけないと思うから」


「ん?そ、そうか……?父さんは平気だけどなぁ」


 酒飲みは皆そう言うのよ。

 しかし……父さんが酒が強くて助かったな。

 もし酔いつぶされていたら、契約どころではないだろうからな。


 だから、俺がしっかりしよう。





 父さんが呑まされた酒は、【麦芽酒エール】と呼ばれる……まぁビールだな。


「おえっ……おろろろろろろろ……」


「はいはい、全部出そう。いっそ全部だそう……父さん」


 下水のある町はいいよな。最高だ。

 俺は父さんの背中をさすりながら、この町に下水の通っている事をうらやんだ。

 なにせ、村は川の近くの自然トイレだからな。


 そして突然、それはひらめくように浮かび上がる。


(――!!……そ、そうだ。【無限むげん】で下水……作っちまうか……)


 この町を参考にしたと言い張れば、きっとクラウ姉さんも誤魔化ごまかせるはずだ。

 念の為に、後でクラウ姉さんにも【ステラダ】に来てもらって、一緒に勉強をするって事にすれば……イケる!!


「――おええええええええ!おえっ、おええええっ!!」


 はいはい。全部こうね。

 近い未来、村に個人トイレが出来ますよ。

 見られもしない、自由に使える水洗のトイレ……皆、きっと喜んでくれるよな。

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