2-85【姉弟の夜1】



◇姉弟の夜1◇


 疲れた。体力的じゃなく、精神的にな。

 正直、旅の疲れなんて問題にならないと思ってた。

 でも、新しいものが目に入る度に……情報が更新されて行ってさ、非常に楽しかったけど……やっぱり疲れたんだよ。

 不思議ふしぎなもんだよ。今日、俺は宿に来ただけだからな。

 なのに、物凄く疲れてる。


 ま、まぁ旅の疲れという事にして、後は寝るだけなんだけどさ。

 そんな俺は、自分と父さんの部屋にいるのだが……実は父さんはいなかったりする。

 どうやらこの街に来てから、【クロスヴァーデン商会】の人たちと会議……という名の飲み会をしているらしい。

 言わば接待せったいをされているんだろう。


 せめて夜には帰ってくると思ったが、来ないな。

 明日、村に帰るんだよな……あの人。

 本当に大丈夫なのだろうか、明日の正式契約。


 でもって俺は、契約に関しては出番がなかった。場に出るのは父さんとレイン姉さんだからな。俺の仕事はそのあと、父さんが帰った後の姉さんのフォローだ。


 ミーティアさんに聞いた話だと、【クロスヴァーデン商会】内でも、うちの野菜の評判はすこぶる良いらしく、もう契約は決定的なんだとか。

 あらためて凄いよな……能力――【豊穣ほうじょう】。


 でもさ、能力のお陰だけじゃないと思うんだ。

 父さんを始め、レギン母さんも姉さんたちも、ロクッサ家の人たちもが頑張った結果だと、俺は思うから。


 だから――


 ――コンコン……


「ん?」


 誰か来た?父さんが帰って来たのか?

 考え事をしていた俺は、ベッドから起きて入口へ向かい。


「はい」


 ガチャリ――と、ドアを開けたそこには。

 先程自分の部屋に帰ったばかりの、レイン姉さんがいた。

 まるで……「来ちゃった」とでも言いそうに、顔を赤らめてさ。


「レイン姉さん……?どうしたの?」


 寝るんだよな?

 明日早いんだし、夜更かしは美容にも悪いぞ?


「……中に入ってもいい?」


 え……何そのしおらしさ。

 どうしちゃったのさ、レイン姉さん。


「いいけど……どうしたのいったい?」


 あれ……よく見たら枕なんか持ってる。

 って、その枕……自前じゃないか。

 家から持って来てたんだな……自分のじゃなきゃ寝れないタイプか。


「ね、ねぇミオ……その……い、い……い」


 なんだそれ可愛いかよ!

 言えてないんですよレイン姉さん。


「お、落ち着いて、レイン姉さん……どうしたのさ」


「うん……実はね、お姉ちゃん……実は……」


 えぇ?何その顔。

 顔が超赤い……上気してる?


 なんで?え?あれ……?俺もなんだか恥ずかしいんだが!


「う、うん……」


「お姉ちゃんね……実は――ひとりじゃ寝られないのっ!!」


 あ~~~~~。うん。

 そうね……そうなんだね。

 なんだろうね、この感じ……


 べ、別に変な事考えてねぇよ!姉弟だぞ!?


「そ、そうなんだ……?でも、家では……――あ!」


 ふと思い出す。

 スクルーズ家では、ずっと……子供四人の部屋だった。

 もう何年も、ずっとずっとだ。

 そして、子供たち別々の部屋案を、かたくなに断り続けていたのが、何を隠そう……このレイン姉さんだ。


 その通り。レイン姉さんは、十七年間……ずっと誰かと一緒だったんだ。

 クラウ姉さんが産まれる前は親子三人で、妹が産まれてからは二人で。

 俺が産まれて、コハクが産まれて……この優しいお姉さんが、妹弟に遠慮えんりょをして、俺たちと一緒にいてくれていると思ってた……でも、違った。


 レイン姉さんは……超絶寂しがりやなんだ。

 一人では、眠れないほどに。

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