2-83【ギャルってすげぇな1】



◇ギャルってすげぇな1◇


 場所は戻って、【商業の街ステラダ】。

 ここは宿屋……【月の猫亭】。

 夜のフロントで……金髪の少年がコソコソとしていた。


 そこに、背後から声を掛ける……少年とは違う毛色の金髪と、特徴的なネコミミを持つ女性が、そ~っと話しかけた――と、言うよりも、おどかした。


「――わっ!!」


「――だぁぁぁぁ!!……キ、キディさ……ん?」


 少年は、いきおい良く飛び跳ねておどろいた。

 それはまるで、いたずらを見つかった時の子供だった。





「キ、キディさん……おどろかさないでくださいよ、心臓が出てしまう所でした……」


「――あっははははは!ごめんごめんっ、コソコソしてるからさぁ、お客人は何してんのかなぁって思って」


 ほ、本当にびっくりしたぞ。

 まぁでも……これは圧倒的に俺が悪いんだがな。


「す、すみません……実は」


 そうなんだ、俺がこんな夜中にコソコソしていたのは、ある目的があったからだ。


「ん?なになに?お姉さんに話してみそ?」


 くっ……このネコミミギャルめ。

 語尾に「にゃ」がないだけで、中身も見た目も完全に、童貞に優しいコスプレギャルだ。


「――お腹がきまして」


 時刻は深夜に入る手前だ、普通の子供ならとっくに寝てる時間だな。


「腹ペコ?」


「はい……」


 そう、腹ペコだ。

 死にそうなんだとよ?


 うん。そう、俺じゃないよ。


「何か、買えませんか?」


 購買こうばいみたいなものがないだろうかと、俺は夜中に関わらずも宿の中を歩いていたのだ。

 では、何故なぜコソコソしていたか……だが。


 腹ペコなのは、俺じゃなくて……レイン姉さんだからだよ。

 大食いだからね、あの人。


「う~ん。今日はお客人が沢山いたからねぇ、買える食べ物はないけど……まかないだったらあるよ?食べる?」


 まかない?


「いや、でも……それってキディさんたち従業員の方のじゃないんですか?」


「ん?あ~いいのいいの、残ってるやつだしねぇ。それにもう、みんな帰ってるからね~、ちょっと待ってて~!」


 あ、行ってしまった……返事も聞かずに。

 でも、正直言ってありがたいな。


「ま、待ってればいいのか……?」


 それにしても、今日のレイン姉さんは困るほどに様子がおかしかった。

 あんなレイン姉さん見たことないし……やっぱり、村の外に出るの不安だったんだろうな、きっと。


 長女として、父親の仕事を手伝ってはいるが、レイン姉さんだってまだ十七歳の少女だ。見た目は、もう完全なる隣の部屋の美人大学生……見たいな魅力をかもし出してるけどな。


 でもって、やせの大食いであるレイン姉さんは、一日に五食くらいを平らげる。

 それも、うちに大量の野菜があるからできる事なんだ。

 だがしかし、ここは違う。

 隣の国の、金のかかる宿屋だ。


(――遠慮えんりょ、してたんだろうな……この数日、さ)


 父さんがそこまで気を利かせられるとは思えない。残念だが。

 レイン姉さんも、父さんが仕事で来ている事を分かってるから、言い出せなかったんだろう。


「……おっ?」


 金髪ネコミミギャルが戻って来たな。

 それにしても、向かってくるキディさんの目が光ってる……暗がりの夜目ってやつか……マジで猫なんだな、この人。

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