2-77【知りたくなる】



◇知りたくなる◇


 眠りについたのはいいが……数時間もしない内に目が覚めた。

 というより、ほとんど眠れていないかもしれないな。


 あれだ……アドレナリン、出まくってる。

 一度味わってしまうと、興奮こうふんが冷めない。

 眠れないんだよ、魔物と戦った事を思い出してしまって。


 とか言っても、動けなくして一撃でトドメ刺しただけなんだけどさ。

 それでも……俺の中では戦ったんだよ。


「――眠れないのか?」


「……あ、はい……」


 俺は起き上がって、焚火たきびに当たるジルさんに向いた。

 どうやら眠れてない事も気付かれていたようだ。


 そのジルさんは……おお、干し肉をかじってた。自前のか。

 ワ、ワイルドだなぁ。

 あれ、そう言えばベジタリアンじゃなかったのか?

 あ。緊急時は肉食うって言ってたか……言ってたっけな?


「――ん?食べるか?」


「あーいえ……大丈夫です」


 ジルさんは「そうか」と言ってむしゃむしゃ。

 確かに美味そうだけどさ、あご痛くねぇ?

 あと、気になるのは……その肉はなんの肉?って事なんだよなぁ。


「それにしても、初の戦闘で冷静に対処たいしょできるとは……やるじゃないか、ミオ」


「え、そうですか……?でも、緊張はしましたけどね」


「いやいや、立ち回りも上手かったよ。手慣れているようだった……」


 これは、多分ゲームの知識だろうなぁ。

 身体が反応しちゃうんだよ……ないと分かってても、クールタイム計算しちゃうんだ。俺の能力にはそんなもん実装されてないんだけどさ。


「そう言ってもらえると嬉しいです。ジルさんは、もう長い……んですよね?」


 あ、大丈夫か……?

 言葉を選べばよかった……行き当たりばったりの発言しちまったかな。


「――そうだなぁ。エルフのくにを出てから、【リューズ騎士団】に入団して騎士に成るまでの間は……わたしは冒険者をしていたよ」


 おー、冒険者!夢があるな!!


「小さなギルドを転々として十数年。今の【リューズ騎士団】に入団してからは落ち着いたのだが……長いと言われれば長いかも知れないな。今思えば、なつかしいものだ」


 聞いていい事なのかな?エルフの事とか、冒険者の事とか。


「……そう、長い。確かに長いな……人間には……な」


 追憶ついおく……何かを思い出したかのような表情に、俺は思った。


 聞かない方がいいかも、と。

 でも、気にはなるな……ジルさんの歴史も。


「……」


「――ん?聞かないのか?」


 自分から言うんかい。

 でもそうか……気を遣ってくれているんだ、ジルさんが。


「――え、いや……気にはなりますけど。その、僕はジルさんにそこまで信頼されてないと思うし……聞いたらまずいかなって……思って」


「――ふふっ……気を利かせなくてもいいさ。それに、わたしは充分お前を信頼しているよ……なにせ、あの野菜たちを作るのだからな。【スクロッサアボカド】、見事な美味さだったぞ!思い出してもよだれが……じゅる」


 わお。野菜凄い。


「まぁ……だが、そうだな。そう言うミオの気遣いもありがたいものだ……感謝するよ……ミオ」


 優しい笑顔だった。

 でも、どこかさびしい感じ。

 ジルさんの歴史は、俺の何倍もあるんだ。

 そりゃ……いろいろあるよな。


 なんたって二百十さ……――い!?


「――こらミオ。手に取るように分かるぞ……君の考えている事が」


「――す、すす……すみませぇぇぇぇん!!」


 もうさ、俺って……女心、分らなすぎだよな……

 こうして、夜は更けていく……優しくも厳しいエルフのお姉さんと共に、暖かい焚火たきびに照らされて。

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