2-76【夜も油断はならない】
◇夜も油断はならない◇
馬を飛ばして、時刻は夜だ。
ジルさんの馬は本当に早くて、実に腰と尻が痛い。
もう分かると思うけど、俺はジルさんの後ろだよ。
乗れる訳ねぇじゃん。乗馬なんてした事ねぇよ。
だがしかし……ジルさんの柔らかい感触を手と頬に感じて進み、更に数時間が過ぎた辺りで、ジルさんが言う。
「……そろそろだな」
「……ん?」
馬を止めるジルさん。
俺も合わせるように周りを見渡す。
そこには、
なるほど。これは中継地点だな。
「今日はここまでだなミオ。ファルも疲れただろう、ゆっくり休め……」
返事をするように、ヒヒーン!ブルル……と、馬が鳴く。
ファルとは馬の名前だってさ。ファルシオンから取ったらしいよ。
そういえば、ジルさんの剣のサーベルもファルシオンなのかな?
「――ミオ、火を起こすから、周囲警戒だ……頼むぞ?」
「あ、はいっ!」
言われた通りに、俺はジルさんを守るように周りを警戒する。
大丈夫だな……危ない気配はない。
精々、夜行性の鳥の声が聞こえるだけだ。
その鳥が魔物なら話は別だが、ジルさんが何も言わないって事は大丈夫だろう。
◇
野営の準備を終え、
「しかし……【クローウルフ】の素材には
ギ、ギクッ――!!
「そ、そうですねぇ……」
そうなのだ……本来ならば、もう少し先に進めていた筈の距離らしい。
しかし、こうも時間が掛かったのは理由がある。
俺の新しい能力――【
「あそこまで素材を落とした【クローウルフ】は初めてだぞ。本当にラッキーだったな……時間はかかったが、まぁ金にはなるからな。結果的にはいいさ」
「そ、そうなんですか?」
どうもそうらしいね。
普通の【クローウルフ】は、基本的に【クローウルフの爪】や【クローウルフの牙】。あとは皮とか毛を落とすらしい。
しかもありがたいことに、倒した魔物は魔力に変換されて消えていく為、処理が要らないのだ。そして、魔物は魔石を生むんだと。
「――ほら、見てみろミオ。これは、お前の倒した狼の魔石だ!」
「はい。大きい……んですよね?」
「ああ!もう
すんません!それ、俺の能力なんです!!
能力――【
ホントさ……びっくりだよ。
【
いや、二周目でも百
思わないか?俺は思うね。
「――だが、時間が掛かったのも事実だな……ミオは眠れ。わたしが火の番をするから」
「いいんですか?」
「無論だ……わたしは大人だからな。素直に眠れ……いいな?」
「……ありがとうございます、ジルさん」
それでも、夜はやはり危険らしい。
火に寄って来ない魔物も
お言葉に甘えるとして、俺は寝袋に入って眠りにつく。
夜行性の魔物は、普段よりも凶悪になるらしいよ……本当にさ、俺はこの世界の事を……なにも知らなかったんだな。
つくづく実感したよ。ド田舎転生の悲惨さをな。
パチパチと鳴る焚き木の音を聞きながら、俺は静かに眠る。
こうして、俺の初めての冒険……初日が幕を下ろしたのだった。
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