2-75【初めての魔物】



◇初めての魔物◇


 村を出て数時間ほど馬を走らせた時、それはふと肌に感じた。

 産毛が逆立つような、肌がピリピリする感覚……ぞわっとする背筋、心の奥底から湧き出る……危機感。


「……!!」


 辺りを見回す俺に、ジルさんが言う。


「――感じたか?」


「は、はい……」


 そう。村を出てから数時間で、完全に気配が変わった。

 そして自覚する……もうここは、村じゃないんだと。


 そして、俺が感じたその気配とは。


「――来るぞミオ。魔物だ……!」


 魔物。モンスター。エネミー。

 様々な呼び方があるが、この世界では魔物と呼ぶらしい。

 村を出る前の二日間でジルさんに散々受けたよ、レクチャーをさ。


 俺とジルさんは馬から降り、構える。

 少しだけ……震えるな。


「平気か?怖いなら……」


「――大丈夫ですっ!僕は……魔法使い・・・・なんでしょ!?」


 これはジルさんの見立てだな、レクチャーでの。

 俺はどうやら、魔法使いの才能があるらしい。

 まぁ、能力【無限むげん】もそんな感じだし、【豊穣ほうじょう】もそうだな。魔法と言い張っているんだし……妥当だとうと言われれば妥当だとうだ。

 は?前世でも魔法使い……?おいこら、誰だ言ったの!!


「――来たぞっ!」


 森の奥から……数体の獣。

 四足歩行の、牙と爪を持つ存在。


 あれは……狼か?


「話した通りだぞミオ。あいつらはうまく立ち回れさえすれば、苦戦する事はない!いいな?」


「――はいっ!」


 事前に頭に入れてある。

 大丈夫だ、それほど怖くはない。なんでかな?

 前世だったら、もうチビってそうだけどな。

 だって普通の狼じゃないんだぞ?当たり前だけどさ。


「――あれは【クローウルフ】、爪が異常発達した狼だ!」


「はいっ!!ジルさんに教えてもらった通りです!」


 俺は腰を落として、低く構える。


「その通りだ。【クローウルフ】は、跳ねて斬りかかってくる攻撃を得意とする。よく見てけろっ!」


 そこまでさせるつもりはないさっ!!

 俺は狼に手をかざし、【無限むげん】を発動する。


「くらえっ!」


 こちらに突撃しようとしていた狼は、急に後ろ足を気にし出し、動きを止める。

 俺が一番得意とする、地面の数値をいじったのさ。

 これが一番簡単で、もう手慣れたんだよ。


 【クローウルフ】の後ろ足は、地面にめり込むようにおおわれていた。


「よし、次だ!」


 そして次は……こうだ!


 狼の真下に転がる石。その数値をいじり、突起を作るように。

 そして思い切り、いきおい良く数値を上昇させる!!

 わざとらしく、俺は魔法を使うように右腕を天高くかざす。


「これでもくらえ……狼!!」


 たったそれだけの動作だ。

 それだけだが、小石はまるで槍のように突き上げ、狼の胸……心臓を貫通かんつうしていった。

 俺は小石の、下の数値を元に戻すと、伸びた上の数値に合わせるように飛んで行く……ように見えた。

 空に浮いた小石は、こつんと地面に落ち……そして同時に……ギャイン――!!と、狼はガクガクと震えて倒れ、直ぐに動かなくなった。


「よ、よし……」


 倒せた……ジルさんはどうだろう。

 俺が視線を向けると……


「――ふっ!!」


 ザシュッ――!!と、ジルさんもサーベルで【クローウルフ】を斬って捨てた瞬間だった……その数は三体、俺は一体だ。


「よし、ミオは……おおっ!魔法か……やるではないか」


「あはは……ありがとうございます」


 成功してよかったな。

 技名――【石の槍ストーンスピア】と名付けよう。

 え?そのまま?……ごめん、ネーミングセンスがなくて。


「よし、では素材を回収して……【ステラダ】に向かうか」


 素材か。まるでゲームだよな……ってのは、もうやめようか。

 ここは異世界だ。ここに産まれて、俺は初めて……生きた魔物と戦ったんだ。

 前世でやり慣れたゲームの世界ではない……本物の、魔物と。


 まぁ、ジルさんと言う補助付きだけどさ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る