2-74【村の外に出る】



◇村の外に出る◇


 それから二日……もう二日ったよ。

 アイシアと向き合うと決めて、あっと言う間に二日だ。


 その二日だけど、俺はアイシアと普通に学校に行き、アイシアと普通に勉強をし、アイシアと普通に帰宅した。

 家では相変わらず、ジルリーネさん……ジルさんがまるで家族のように馴染んでいた。


 え?うん……俺もそう呼べって言われたから。

 本当は呼び捨てでいいって言われたんだけど、でも、精神年齢がいくら四十二歳の俺よりもさ、ジルさんの方が年上だって分かってるとさ、呼び捨てってしにくくないか?本人がいいって言っててもさ。

 だから、俺はさん付けにしたんだよ。クラウ姉さんは呼び捨てだけど。


「おお、おかえりだミオ……明日の準備は万全だぞ」


「あ、はい。すみませんジルさん……準備させっぱなしで」


 そう……明日はもう、俺が【リードンセルク王国】に行く日だ。

 ミーティアさんや父さん、レイン姉さんが向かった街……【ステラダ】に出発するんだよ。


「なに、いいさ……ミオは学校があったんだ。それに、格別大した量ではないしな」


「そう、ですか。それならいいんですけど」


 順当に行けば二日、ジルさんの馬なら一日半で行けるらしい。

 ミーティアさんのお父さん、【クロスヴァーデン商会】の会長、ダンドルフさんは物凄く多忙らしい。

 だから、父さんとレイン姉さんは【ステラダ】の宿で待機している筈だ。

 宿泊代金も払ってくれると言うし、大盤振る舞いだと思うね。


 それに、ミーティアさんが二人を案内をしてくれると言っていたし、そこは心配ないさ。父さんも、きっと大丈夫……だと思う。


 父さんは、もう直ぐこの村の村長になるんだし、長居は出来ないんだ。

 だから俺が行って、レイン姉さんをサポートする手筈になっているんだ。

 当然だよな。流石さすが子供おれに契約を任せていたら、【クロスヴァーデン商会】の評判が危なくなる。


 レイン姉さんも子供だろって?……まぁ確かに。

 でも、俺よりははるかに大人だしな……レイン姉さんは父さんの引継ぎだし、十二歳の俺よりはマシって事なのでは?


「よしっと、僕の準備もこれでばっちりです」


 そんな事を内心で言いつつも、俺はしっかりと手は動かしていたんだ。

 やるもんだろ?


「うむ、では食事をして、今日は早く眠ろう……明日は早いぞ?」


「……はいっ」


 そうして、俺は明日。

 村の外に出るんだ。

 近くの草原や山、森ではなく……本当の外に。





 出発の朝は早い。


「――それじゃあ母さん、クラウ姉さん……コハク、行ってきます!」


「私も行きたかった……」


 クラウ姉さん……一言目がそれかい。


「ミオ。はいこれ……お弁当よ。ジルちゃんと食べてね」


「ありがとう!」


 愚痴ぐちるクラウ姉さんはともかく、レギン母さんのお弁当はありがたいな。

 コハクは眠そうだけど……兄ちゃんの為に起きてくれてありがとうな。


「ジルちゃんも、息子をよろしくお願いいたしますね……」


 母さんはジルさんにも丁寧ていねいに頭を下げる。

 抱かれたコハクが「ジルジル~」と笑顔でくっつこうとするが、クラウ姉さんがつかんだ。落ちそうだったからな。


「ああ、心得たよ。ミオもルドルフも、無事に届けよう……任せてくれレギン。クラウも、修行しておけよ?」


「……分かってる。次は勝つし」


「そうか、ならいいさ……では、行くぞミオ」


「はい……!」

(あ。アイシアだ……)


 少しだけ遠めに、アイシアを見つけた。

 家族の別れに遠慮えんりょしてか、遠くから手を振っていた。

 だから俺は、見えるように大きく身体を使って、アイシアに叫ぶ。


「――アイシア!!行ってきまーす!!」


 ははは……うん。聞こえたよ。

 「気を付けてねー!」って、ひかえめにさ。


 それじゃあ……よし!。

 行こう……村の外に!!

 俺が転生して、初めての冒険の旅に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る