2-73【その笑顔を忘れない】



◇その笑顔を忘れない◇


 話しを終え別れぎわ

 彼女は笑顔でこう言った。


『――また明日ね、ミオ!』


 俺も笑顔で返したけど……どうかな、ちゃんと笑えていたかな?

 彼女の真剣な思いを……それを知って、俺は変われるかな?

 夕日が沈んでいく中、俺はずっと……アイシアの笑顔を思い浮かべていたんだ。


 忘れないだろうな。アイシアのあの笑顔を。




「また明日ね……か」


 言ってもらえる事は、すごく幸せな事だと思うよ。

 思いに応えるなんて、簡単に言える事でもないし……正直、今すぐに出来る事じゃない。

 まだ十二歳の子供に、思春期の男の子に……こくなことするよな……異世界よ。


 一途いちずで可愛い、少しだけ嫉妬深しっとぶかい幼馴染の許嫁いいなずけ

 夢を追いかけて、たとえ奴隷どれいにされても自分の未来を切り開こうとする、美人で年上のお嬢様。


 同時に現れるなよ……って言うのは、きっと我儘わがままなんだろうな。

 ラブコメの主人公って、こういう時どうすんだ?

 二人とも好きだー!!って叫ぶか?

 運命のパンツでも探すか?

 桜の木の下で告白――って、桜ないな、この村。


 俺がメタなネタを脳内処理しながら家に帰ると。


「――ただいま……って、な、何してるんですか!?」


「――おお!ミオ、おかえりだ」


「ミオにいちゃんおかえりー」


 家に入った瞬間、コハクがジルリーネさんにまたがっていた。

 どう見てもお馬さんごっこ。


「ははは……ひひーん!」


「あははははは!!」


 おいおいコハク。

 その人、エルフの王女さまだよ?

 不敬ふけいどころではないんだよ、我が妹よ。


「ジ、ジルリーネさん……」


 いいのかそれで。

 自由騎士!自由すぎんか!?


「ジルちゃんごめんなさいね~、コハクを見て貰っちゃって」


 か、母さん!?

 今……ジ、ジルちゃん……って言った?


「構わないさレギン、一宿一飯の恩義があるからな!ひひーん!!」


 そこじゃない!!名前だよ名前!ちゃんって……王女さま!?


「――おかえりミオ。遅かったね」


「あ、クラウ姉さん……」


 目元赤っ!また泣かされ……いや、勝手に泣いたのかな?

 でもよかった、クラウ姉さんは変わらず――


「――ジル。お皿運ぶの手伝って」


「ああ、任せてくれっ……よっと!」


「あはははっ!ジルジルー!」


 ジルリーネさんはコハクを抱きかかえ、クラウ姉さんに言われた通りに手伝い始めた。


「……」


 ああああああ……やばいやばい、やばいやばいやばい!!

 し、侵食しんしょくされてるぅぅぅぅ!


 ジルリーネさん……スクルーズ家に馴染み過ぎなんだが!!

 もう、色々ありすぎて……頭がパンクするっつーのぉぉぉぉ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る