2-72【幼馴染と許嫁の間】



◇幼馴染と許嫁の間◇


 夕日が綺麗だった。

 曇の少ない、開けた場所特有の、視界一杯のオレンジ色の空。

 隣に座る、夕日と同じ色をした彼女の髪が、やたらと綺麗に見えて、俺は。


 あぁ、顔が赤いかもしれない。

 夕方でよかった。これなら多少は誤魔化ごまかせるもんな。


「……」


「……」


 しかし、お互い無言だ。言葉が出ないんだよ。

 あれだけ考えていたのに、土壇場どたんばで違うんじゃないかなってさ。


「……」


「……」


 もう最悪だ。俺が最悪だ。

 年頃の女の子と話した事なんて……もしかしたら高校の同級生が最後じゃなかったか?


 確か……誰だったかは忘れたけど、静かな子だった気がする。

 じゃなくて!今はアイシアだ……前世なんてどうでもいい!!


 何か言わないと……き、嫌われ……あ!そ、そうか……そうなんだ。

 俺は、アイシアに嫌われる事を恐れてたのか……ずっと隣にいると、幼馴染だから……そばにいるなんて、当たり前だと思ってたんだ。


「――アイシア」


「……うん」


 伝えよう、俺が思っている事を。

 俺が知ったばかりで、アイシアがずっと知っていた事を。


「僕とアイシアが……許嫁いいなずけだって、知ってた?」


「――う、うん……知ってたよ?」


 やっぱりか。


「いつから?」


 アイシアは考える時間など一切持たないまま。


「初めて会った時からだよ」


 四歳の時だ。

 だから初めから、彼女は許嫁いいなずけとして俺に会ったんだ。

 それが俺とは違う、決定的な差だ。


「……そっか。ごめん、僕は……知ったばかりなんだ」


「あはは、そうなんだ。な、なんだか照れるねぇ……――あ!もしかして、聞いたの?」


 集会所での事を……だよな。


「う、うん……ミーティアさんに、言ったんだって?」


「ご、ごめんね……変なことを言って」


 なんであやまるんだよ。

 そこは違うよ、アイシア。もっと、自分本位でいいさ。

 だって君はそう言う立場なんだ……自分の事を許嫁いいなずけだって、叫べる立場なんだから。


あやまらないでよ……あやまらなきゃいけないのは、僕の方なんだから……」


「え?ミオが?」


 ずっと……相手にしなかった。

 ただの幼馴染だって、そんな理由で。

 能力を調べられないから邪魔だって思ってて。

 女の子だと思えてなくて。


「――ごめん、アイシア……ずっと、ずっとひどい態度をしてて……」


 俺は頭を下げようとした……んだけど。

 何故なぜかアイシアが、下げようとする俺の頭を押さえてて。


「あ、あやまらないで~」


 明るく、軽やかに言う。

 俺は……顔を上げる。


「どうしてだい?僕はずっと、アイシアを邪険にしてたんだよ?」


「う、うん。それは知ってる……でも、それは幼馴染だったから……ママも言ってたし。「許嫁いいなずけだって知られてからが勝負だ!」……って」


 リュナさん……あの人は、どこまで考えていたんだろうか。

 もしかすると、父さんも同じだったのか?


「勝負……?」


「うん!私、負けないよっ……あの人に負けないから!あの人が成人する五年後……その間に……ミオに、好きって言ってもらうから!!」


 そうか。本当に、本当にこんな俺を好きでいてくれてたんだな……親に言われたからでもなく、許嫁いいなずけだってだけじゃなくて……俺を、ミオ・スクルーズを、こんなに好きでいてくれたんだな。


 向き合うよ。俺も……君を見る。

 正直、自分の気持ちはまだ分からない。

 人を好きになるという事が……難しすぎてさ。


 だからアイシアが言うように、五年間を見ていて欲しい。

 きっと、過ぎていく時間は物凄く早いんだろう。

 その時間は、こんな俺を変えてくれるだろうか。

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