2-69【快復優先】+用語その4



◇快復優先◇


 その日の夜、俺が一番おどろいたのは。

 エルフの女騎士さんこと、ジルリーネさんがうちで寝泊まりすると言う事だった。


 なんでも、俺の状態を常に見ておきたいらしい。

 まったくもって困るのだが。

 昼間はクラウ姉さんと何かをしてるし……この人、自由過ぎないか?

 あ……自由騎士だったんだな、そう言えば。


「――おやすみだ、ミオ」


 何をするでもなく、ジルリーネさんが布団に入る。

 眠る挨拶を簡易かんいで口にする。

 だから俺も返すだろ?隣なんだし。


「お、おやすみなさい……」


「おやすみ……」


「おやすみなさ~い」


 え?ちょっと待たないか?ジルリーネさんもここで寝るの?

 その場所はレイン姉さんの所……そこで寝るの?

 おかしくない?なんでわざわざ俺の隣……――いやめっちゃ見てるんですけど!!


「な、なにか?」


「いや、少しな。不思議ふしぎな感覚だ」


 なにがでしょうか……?


「ふふ……男が隣にいるのがだよ」


 ラフな格好のまま、その豊満な身体が見える。

 タンクトップのその姿は、鎧姿からかけ離れている。


 しかもなんとも優しい笑顔でそう言うジルリーネさん。

 それにしても、男ってなぁ……俺はまだ十二のガキですよ?中身は違うけど。


「……お、やすみなさい……!」


 正直に言えば、死ぬほど恥ずかしかった。

 おもくそ恥ずかしかった。

 だって、年上の女性が……真隣で無防備な格好で寝てるんだぞ!?

 童貞丸出しとか言うなよ!誰だってそうなるだろ!


「……」


 俺は背を向けて、無心になって寝ようとこころみた。


 ――なのだが。


 クラウ姉さんが……真顔でこっちみてんの。や、止めてくれよ。

 と言うか、もしかして俺の後頭部ずっと見てただろ……視線を感じたんだよ本当は!


「……」


「……」


 なにも言わないのも怖いんだよなぁぁぁぁ!せめてまばたきしてくれ!

 俺は恐怖からか疲れからか、自然と目を閉じる。

 うん、多分恐怖からだ。


「……」

(アイズの事を考えるのはやめよう……)


 眠る為に……そうだ、明日の事を考えよう。

 明日は……何をしようか。

 早く身体を良くして……隣の国に……行って……父さんと……レイン姉さん、ミーティアさん……に……会いに……


「……すぅ……」


 いつの間にか、俺は眠っていた。

 二日も寝てたってのに。不思議ふしぎだよな、身体って。





 翌日。


「体調いい……身体も動くっ……!」


 絶好調!ミオ・スクルーズですっ!!……いや、すまん。


「――ミオ。元気そうじゃないか……どれどれ」


「わっ」


 ジルリーネさん……しゃがんでなにを?


「こら、動くんじゃない」


 ジルリーネさんは俺のひたいに自分のひたいを付ける。

 ね、熱を計ってんの……?ってか顔近っ!!改めて見ても、めちゃくちゃ綺麗だなこの人……流石さすが、終身名誉美人種族。エルフの王女さまだな。


「うん、魔力の回復は問題ないな……」


「やった!」


 おお!それで分かるんだ。

 でも、心からのやった!だな。


「――だが」


 え?だが……?


「体力はまだのようだ。いいかミオ、魔力と体力は、並列して回復させなければ駄目だめなんだ。たとえ魔力が回復していても、体力の低下で魔力の消費も変わるんだよ……」


「そうなん……ですか?」


 マジで?そんなシステム……って言い方は悪いな。

 そんな魔法のありかた、そう言う世界なのか。


「ああ、そうなんだ。だから、今は体力の回復……体調の快復かいふくを優先だな」


 なるほど。元に戻す回復ではなく、病気のたぐい快復かいふくか。

 それなら分かりやすい……簡単に言えば、安静あんせいに大人しくしていろって事だろ?




――――――――――――――――――――――――――――――

・【澪から始まる】用語その4

 【美貌びぼう】。正式名称不明の、ミオの能力の一つ。

 自動発生型であり、自分に対しての効果はない。

 効果範囲、と言うか効果対象は、自分の身内に限られる。

 特に女性に恩恵おんけいがあり、母親、二人の姉、妹に効果がおよんでいる。

 効能は、そのまま美貌びぼうだ。

 何もしなくても見目麗みめうるわしい容姿を保てるというもの。

 しかし、あくまでも保てる。であり、変身のたぐいではない。

 整形などの外見変化ではない。肌のつやが良かったり、健康的になったりする。因みに、母親のレギンが年々若々しくなっているのも、【美貌びぼう】の効果である。

 やはり母親から産まれているからか、一番【美貌びぼう】の影響を受けていると思われる。

 もともと美形の一家ではあるが、この能力によって輪をかけて美しさを与えられていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る