2-68【ポンコツ女神】



◇ポンコツ女神◇


 この村の歴史は、結構な長さをほこっているらしい。

 その長きに渡る時間の中で、ひかえめで大人しく、目立つのが苦手な女神が作った村があった。

 その恥ずかしがり屋の女神に敬意を持った村人たちは、村の名前をみずから言うことは無くなっていった。

 そうして長き時が流れ、いつかしか、住んでいた村人たちでさえも……自分たちの村の名前を忘れていったのだ。


 その女神の名は――【豊穣ほうじょうの神アイズレーン】。

 恥ずかしがり屋で思慮しりょ深く、優しさに溢れた豊穣神ほうじょうしん


 それが……俺がジルリーネさんから聞いた話だ。


 ……。……。……。


 うそつけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

 絶対に!そんな!イメージは!ない!


 ひかえめで大人しい?目立つのが苦手?

 ど・こ・が!!十二年前に転生した時も、夢に出て来た数回も、そんなイメージはございません!ご~ざ~い~ま~せんっ!!


 はぁぁ……つ、疲れた。

 心の中でツッコんでて、めちゃくちゃ疲れた。


 今俺は、一人で部屋に寝転んでいる。

 レギン母さんはコハクと台所、クラウ姉さんはジルリーネさんとどこかに行った。


「あいつが……豊穣ほうじょうの神?」


 冗談だろ?

 あの適当な女神が、豊穣神ほうじょうしん

 見た目も確かに知らないし、声しか聴いたことは無いがんだが、適当で面倒臭めんどうくさがりなのは分かる。ああ、それは絶対だ。


「ははは……」


 思わず一人で笑っちまうよ……怖え。


 だが、もしかしたらという考えもある。

 それが……俺がこの村に転生した理由なのではないのかと。


 転生する時にあの女神は、いい場所がある。と言った。

 それがここなのか?この村が?

 自分の名前の付いた、古びた村?


「……むっずいなぁもう」


 あの女神がなにを考えてんだか、本っ当に分からん。

 それにあいつ……自分は新人だ……って言ってなかったか?

 神に年齢なんて関係ないかもしれないが、この村の話が真実なら、何年新人やってるんだよ。


「それだと、もう一生新人じゃん……」


 この村はもう何百年も前からあるらしいし、おかしくないか?

 ああ、じゃああれだ……別人。同名の別人だ……いや別神べつじん

 だけど……夢に出て来たあいつは、なんでいきなり能力のヒントなんて寄こして来たんだ?


 俺はアイズの事を思い出しながら起き上がり、胸を触る。

 さす、さす、と。落ち着かせるように数度でて。


 確かにある。分かるんだ。

 この胸の中には、能力がある……俺が貰った能力は、【無限むげん】。

 だが、確かに感じるんだよ……もう二つ・・、感じることができる。


 何もない所に存在する、見えないもの。

 空虚くうきょな世界にただよう、能力と言う宝。


 俺は目をつぶり……その何もない空間で手を伸ばし、探る。

 心の中を、探っていく。

 一人で、冷静に、静かに……音のない世界でその光を追う。


 俺の中に宿る、その光の名は。


 ――【強奪ごうだつ】――そして――【譲渡じょうと】。


「あぁそうか、分かったよアイズ……これが、ヒントか……」


 空虚くうきょな心の奥底で、俺は四つ目、そして五つ目の能力を手に入れたんだ。


「い、いや……なんだろうな。この感覚、どちらかと言えば……」


 そうだ。手に入れたとは違う感覚だ。

 どちらかと言えば……そう、使い方を――思い出した、だ。

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