2-67【豊穣の村アイズレーン】



豊穣ほうじょうの村アイズレーン◇


 俺は、何も知らなかった……そう言えば、この村の名前も知らなかったんだな。

 まさか、あのポンコツ女神が関係していたとは。

 しかし……なんの形式も残っていないじゃないですか。


「この村の名前は……アイズレーンだ、エルフには分かるが……人間たちは仕方がないだろうな……【女神アイズレーン】は崇高すうこうなお方だが、目立つのが苦手で、名前を伏せさせていたらしいからな」


 村の名前を?そこまで隠したがるか?

 それに、あのポンコツ女神が?別人じゃないのかとうたがわしくなるぞ。


「それでその女神……さまは、村の名前を隠してたんですか?」


「ふむ、と言うよりもだな……この村の先祖代々の村人たちが、女神に敬意をしょうして隠したのだろう。そうしてその長い年月で……誰も呼ばなくなったんだよ」


 あのポンコツに敬意なんて持てねぇよなぁ……つか、何度か夢に出て来てんだから言えよ!

 十二年も住んでんのに、村の名前知らなかったとか。

 あ、いや……それを言ってしまえば……きっと今の村人も知らないんだ。

 知らなくても暮らせて行けたから、必要なかったんだろうな。


「――ちょっとママは知ってたかどうか聞いてくるわっ」


「クラウ姉さん……」


 多分知らないよ。父さん母さんも、きっと村長も知らないはずだよ。

 挨拶が……「この村の村長です」ってくらいだからな。


「ジルリーネさん、ありがとうございます……色々と教えてくれて。でも、ジルリーネさんってお姫様なんですよね?姫さまとか、殿下でんかって呼んだ方がいいんですか?」


「――あははっ、やめてくれやめてくれ。わたしは騎士だ、姫と呼ばれるのはムズかゆいよ。それに、別に姫でも役目などないからなぁ」


 それでも、お姫様なんでしょ?いいのかそれで。


「それじゃあ、ジルリーネさん……のままでいいんですかね?」


「ああ勿論もちろんだ、それでいいさ……わたしも、君をミオと呼ばせてもらうしな。あ~いや、もう呼んでいたか、はははっ」


 そう言えば確かに。

 終始ミオだったよ……でも、それでいいさ、その方がいい。


「あ、ところで、ジルリーネさんって何歳なんですか……?」


 ピキリ――


 空気にひびが入った気がした。

 やばい……背筋が凍りそう。

 あ~これはあれだ……やったな、俺。


「……」


 スクッ――と立ち上がり、俺の正面に立つジルリーネさん。

 いや怖いから……でも俺が悪かった、ごめんなさい!!

 簡単に女性に年齢を聞くもんじゃない、どこの世界でも同じなんだと分かりましたから!反省しますから!


「ご……ごめんなさ――」


 ガッ――!と、ジルリーネさんが俺の頭を。


 あーーーーー!!頭をつかまれた!

 アイアンクローってやつだ……い、いでぇぇぇぇぇぇ!!

 ゆ、指がががががが……めり込むぅぅぅ!!


「――わたしはまだ・・二百十歳だぞミオ……!!」


 に、二百十!?流石さすがエルフ!若々しいです!だから離して!!頭割れるっ!


「――ミオ……ママも知らないって……何してんの!?」


「ク、クラウ姉さん……た、たすけて……」


「ははは、なに……ミオが少し、女性に対する粗相そそうをしたのだ……年齢など、些細ささいな事だろう?」


 その言葉で、クラウ姉さんもさっしたようだ。


「あ~、それは駄目だめね……ミオ、反省しなさい」


 いでででで!俺は猿かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

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