2-66【豊穣の村8】



豊穣ほうじょうの村8◇


 うーむ。俺の疲労はどれ程で取れるだろうか。

 まさか、明日なんて言わないよな?まだめちゃくちゃ身体がだるいんだ。

 しかも、胸の奥で何か……なんだろうな、あの女神……マジで。


 色々と確かめたい事もあるのに、旅だと?

 正直言えば……行きたい。

 今直ぐでも他の国や町を見てみたい。

 だってそうだろ……異世界に転生して十二年、俺はこの村を出ていない。

 見て見たいに決まってるさ、転生者として……この異世界の全貌ぜんぼうをさ。


 だけど、懸念けねんもあるんだ。

 このド田舎には、魔物が出ないだろ?それは何故なぜだ?ジルリーネさんのような騎士がいるという事は、【リードンセルク王国】には出るんだろう、魔物がさ。

 だけど、ここはどうだ?魔物どころか、害獣が出るのもまれだぞ?


 転生して十二年間、一度たりとも見たことがない魔物。

 本当にファンタジーの世界なのだろうかと言いたくなるような十二年だ。

 しかし、そんな俺の長年の疑問を……ジルリーネさんが、何とも自然に口にする。

 それこそ、れる銀髪を元に戻す様に、自然にだ。


「――だが、この村は本当に自然豊かで……控えめに言っても素晴らしいな。魔物も周囲には発生しないし、悪意を持つ者も少ない……流石さすが――女神に守られた村・・・・・・・だ」


 ……。……。……。

 今、なんて……なんて言った??


「ジ、ジルリーネさん……今、なんて……?」


「ん?魔物が出なくて……」


「――そこじゃなくてっ!その後!」


「……女神に守られた村だ?」


 女神に……?守られた?

 なんだよそれ、初耳なんですけど。


 ガタン――と、部屋の扉が鳴った。

 まさか。


「――今の、どういう事?ジルリーネ」


 クラウ姉さんだ……どうやら今の話を聞いていたんだな。


「クラウ姉さん。姉さんも、知らなかったの?」


「ええ……初耳だわ」


 なるほど。ダメだな転生者おれたち

 しかし、ジルリーネさんは言う。


「いやいや……仕方あるまい。この村は【サディオーラス帝国】の地図にっていない、もちろん【リードンセルク王国】の地図にもだ」


 こ、この村は……存在しない村な訳ですか!?

 ド田舎すぎるだろうが!!いやド田舎だろうと、ってないのはおかしいか。


「だが……我々エルフは知っている。この村が――【豊穣ほうじょうの女神】……アイズレーン・・・・・・が見守る村だという事を……な」


「「は」」


「――はぁぁぁぁぁぁ!?」


 あっぶねぇぇぇぇ!!俺も叫ぶところだったぁぁ!!

 し、しかし……アイズレーンって言ったか!?あのポンコツ女神……新人じゃなかったのかよ!ふざけんな!詐欺さぎだぞコノヤロー!!


「ん?どうしたクラウ……【女神アイズレーン】を知っているのか?」


「え、あ……いや……ほ、本で読んだから!」


 はい確定。クラウ姉さんを転生させたのは、俺と同じポンコツ女神さまだよ。

 もう、なんだろうね。あのポンコツ女神……振り回し過ぎじゃない?

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