2-65【豊穣の村7】



豊穣ほうじょうの村7◇


 戻って来た。家に。

 うん。放心したままな。


「どうしよう……」


 心の底からの「どうしよう」だった。

 俺に何か出来るのか?許嫁いいなずけだったことも知らないで、アイシアをずっと邪険にしてきた俺が、今更いい男なんて成れないって。


 しかも、ミーティアさんが……俺を好き?

 出会ったばかりだぞ?時間なんてほとんど経ってないし。

 言ってしまえば……信用は出来ない、だ。


 これは俺の性格の問題だろうけど、ぜん食わぬは男の恥……


 ……。……。……。


 ――俺には無理だよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 三十の魔法使いに何が出来んだよ!相手は十二と十五の子供だよぉぉ!!

 しかも俺は人生二週目、精神年齢はもう四十二だからっ!!

 異世界だって分かってても、日本人としての理性が強いんだよ!御用になりたくないの!


「――どうしたんだ?そんなに暗い顔をして……折角の男前が台無しだぞ?」


 聞こえてきた声に、俺はつい反応をして返してしまった。


「……はぁ……そりゃどうも――って!!――えっ!?」


 バババっ――と、俺は一気に警戒けいかいをする。

 何故なぜこの子供部屋に……侵入者が!?

 しかし、その侵入者は……知り合いだった。


 最近知り合ったばかりの、エルフのお姉さん。


「――え?は?……ジ、ジルリーネさん!?」


「ああ、おかえりだ。ミオ」


 な、なんで?なんでジルリーネさんがいるんだよ!

 帰ったよな?馬車は!?任務は!?


「ふふっ、まぁ座れミオ……事情はしっかりと説明するさ」


「は、はぁ……」


 不安なのだが。


「結論から言おう……わたしは残った」


「はい……」


「――以上だ」


 ええぇ……それだけ?

 説明になっていないんですがそれは。


「ふふっ……冗談だよ、エルフジョークさ」


 なにそれ。

 そんな事を言いつつも、ジルリーネさんは本当の説明をしてくれる。

 もう初めからそうしてくれよ……今日は精神的にきついんだから。


「わたしが残ったのはな、君を【ステラダ】に連れていく為だよ」


「え、僕を……?」


 俺を、【ステラダ】……ミーティアさんが住む町に?


「ああ、君のお父上に頼まれてね」


 ルドルフ父さんに?なんでだ……あ。いや、きっとそうだ。


「契約の事、ですか?」


「ああ。それもあるが……社会見学、に近いかな?君は、この村を出た事がないだろう?」


「それは、そうですね。せいぜい村の外……それこそミーティアさんを助けた場所くらいの距離です」


「うん。だから、わたしが君を連れて行くよ……【ステラダ】、延いては【リードンセルク王国】へ……ね。しかし、君の回復が優先だからね、わたしが残ったんだ。野菜も食べたいし」


 なるほど。そうだよな、本来は俺が【ステラダ】に行くべきだったんだ。

 だが子供な上に、病み上がりだったから……父さんがジルリーネさんに頼んだという事か……俺が快復かいふくしたら連れて来てくれと。


 もうさ、先に言ってくれないか?いらんサプライズだよ。

 と言うか……「野菜が食べたい」が本音ではないのか、この人……

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