2-63【豊穣の村5】



豊穣ほうじょうの村5◇


 事の顛末てんまつは、一昨日おとといの夜に俺がぶっ倒れた後らしい。

 顔を青くして俺を心配するミーティアさんと、気が動転する父さん。

 それをいさめたのは、レギン母さんだってさ。


 一発、父さんを平手打ち。

 ミーティアさんの肩を揺さぶって、正気にさせたんだとさ……これは、後でクラウ姉さんに聞いた話な。


 そして、俺は二日間も寝ていた……と、言うよりは、気絶に近いのだろうかと思う。

 そして翌日、ジルリーネさんがダンドルフさんを連れて来た。

 ジルリーネさんは余程信頼されているのだろう。ダンドルフさんは終始笑顔で、ミーティアさんと他の二人の無事を喜んでいたらしいよ。


 そして、肝心の商談だ。

 何でも、言い出したのは俺の父さんらしい。

 その場にいたミーティアさんがおどろいてたらしいから、ミーティアさんもあきらめかけていたのかもしれないな。


 商談は父さん同士、二人で行われたから詳細は俺にも……誰にも分からない。

 では、何故なぜここまで簡単に事が進んだのかという事だ。

 結論から言えば……最大の理由はジルリーネさんだった。


 ジルリーネさんの、ダンドルフさんからの信頼はえげつのないものだった。

 彼女は……なんとエルフの王女様らしい。

 銀髪でエルフで騎士で王女だってさ……ははは……テンプレ過ぎて笑ったよ。


 でも……そのおかげで、村の未来が見えたんだ。感謝しかないよ。

 父さんもさ、俺が魔法を使い、ぶっ倒れてまで本気を示した事で、商談をする気になったらしいな。

 もっとも、ダンドルフさんが積極的じゃなければ、商談にすらならないで終わっていただろうけどさ。





 そして現在だ。俺たちは外にいる。

 帰るんだよ……ミーティアさんたちが。

 そもそも、昨日つ予定だったのだから、急ぎなんだよな。


 【リードンセルク王国】、ミーティアさんが住む町の名は【ステラダ】。

 目的地はそこだ、【ステラダ】の【クロスヴァーデン商会】の本社で、契約だ。

 そう、正式な契約……【スクルーズロクッサ農園】と【クロスヴァーデン商会】の専属契約だ。


「――じゃあ、行ってくるよレギン」


「ええ、気をつけてね……あなた」


「行ってきます、ミオ」


「行ってらっしゃい、父さんも……レイン姉さんも、気を付けて」


 大型の馬車に乗り込む、経営者の父さんと、付き添いのレイン姉さんだ。

 本当は俺が行くべきなんだろうけど、病み上がりでレギン母さんに怒られた。

 頼むよレイン姉さん。父さんを……いや、父さんならもう大丈夫か。


「ミオくん。お父様とレインさんは、私がしっかり案内するからっ……だから――」


 ミーティアさんは少しだけ悲しそうに。

 だから、俺は安心させられればと……満面の笑みで言う。


「はいっ。ミーティアさん……父と姉を、お願いします!」


「――う、うんっ!!」


 差し出された白く細い手……がっしりと握手をする。なにも最後じゃないんだ。

 うちの野菜が繋ぐ……未来があるんだからな。

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