2-62【豊穣の村4】



豊穣ほうじょうの村4◇


 理解が追い付いていない俺に、ミーティアさんが教えてくれる。

 俺、そんなに状況把握出来て無かったかな?


「もう、お父様……簡潔かんけつすぎですっ!ミオくんが混乱してしまっていますからっ」


「ん?お、おお。そうか、私も嬉しくなってしまってな……すみませぬな、ルドルフ殿……」


「あ~いやいや、評価して貰ったのはこちらなので……私どもはなんとも」


 評価して貰った?【スクロッサアボカド】を?

 もしかして、父さんとダンドルフさん、商談を……したのか?

 俺の寝ている短い間に?


「――ど、どうして……だって昨日は、父さん」


 そうだよ、昨日……父さんは乗り気じゃなかった。

 それがどうしてこうなってんだよ!訳わからん!


「落ち着けミオ……ダンドルフ殿とは、昨日・・と今日で随分ずいぶんと話をしたんだよ」


「……え?」


 ちょっと待て。昨日・・……今日?

 昨日ってなんだ?俺は……ま、まさか……!?


 俺の疑問の答え合わせは、後ろの姉が。


「――ミオは二日・・寝てたのよ……?」


「ク、クラウ姉さん……」


 やっぱりかよ。そんなにも、俺は……やらかしてんじゃないか!

 アイズをポンコツ女神だなんたらって言ってはいられないミスだ……くそっ!


「それでだな……お前の見つけたアボカドが……評価されてな。勿論もちろん、他の野菜たちもだぞ?何もお前の手柄てがらだけじゃないんだからな……」


 俺が寝てるこの二日で、とんとん拍子びょうしに話が進んだって言うのか?


「そうなん……だ」


 俺……自意識過剰だったんだな。父さん、この人……ちゃんとしてる人だ。

 自分が転生者だからって……情けない男だって、父親ながらにバカにしていたのかもしれない。


「お父さん、本当は昨日帰る予定だった会長さんを、引き留めたのよ?息子が目覚めるまで待ってくれないかって……頭下げて」


 俺に説明をしてくれるレギン母さん。


「――お、おいレギン……やめないか、子供の前でっ」


 父さんは照れくさそうに頭を掻いて言う。


「いやなに……【スクロッサアボカド】を見つけたのはお前だからな。そのお前を差し置いて商談を進めたのは……そうだな、この前のお前を見たからだ」


 この前の俺?ああ……一昨日おとといって事か。

 きっと、俺の【豊穣ほうじょう】の事だ。


「――気を失うまで魔法なんか使って……あのあと、ミーティアさんは一晩中お前を看病してくれてたんだぞ?」


「――えっ?」


 俺が視線を向けると、恥ずかしそうに小さくうなずくミーティアさん。

 ん?少し遠くから視線が……――って!アイシアっ!!

 に、にらんで……お前、そんな顔も出来たのかよっ!


「そうだな。だから、娘がそこまで気に入った少年……折角のご厚意もある、会わない訳にもいかんだろう?」


「お、お父様……」


 ダンドルフさんが言う。

 なんだよ。ミーティアさんの話だと、子育てに理解を示さない仕事人間だってイメージだったけど……しっかり親をやっているじゃないか。

 俺の父さんも、さ。


 これは全部、大人の――親の手柄てがらだと、俺はそう思う。

 息子おれを信じて、商談までしてくれた父さん。

 ミーティアさんを心配し、直々じきじきに村まで来て、ジルリーネさんに言われた事を直接確認した、商人としてのダンドルフさん。

 俺は強く思った。早く……早く大人になりたい……と。

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