2-61【豊穣の村3】



◇豊穣の村3◇


 俺がジルリーネさんに手招きされて集会所の中に入ると。

 スクルーズ家の皆に、ロクッサ家の皆。

 ミーティアさんとジュンさん、リディオルフさん。

 そしてもう一人、お髭のダンディなおじ様がいた。


(だ、誰だ……?)


 俺が、その言葉を顔に出していたのかは分からないが、隣のジルリーネさんが教えてくれる。


「――旦那様だよ……ミーティアお嬢様のお父上だ」


「――えっ!?」


 マ、マジで!?ジルリーネさん……この人、まさか連れてきちゃったの!?


 あれ?でも、いや……これって逆にやばいんじゃないか?

 昨日の今日、あのまま終わった状態で……【クロスヴァーデン商会】の会長さんが来てしまうなんて……思ってもねぇよ!!


「……す、すみません。どうやら寝坊したようで」


 とにかく謝罪だ、下手な言い訳は無用!

 ここが前世だったら、あの手この手で言い訳するが、誠実せいじつこそが――ミオ・スクルーズだ……!中身の事はともかくな!


「来たか……ミオ。こちらに来なさい」


 父さんが冷静に言うが、どうやら緊張はしていないようだな。意外だ。


「……はい」


 俺は父さんの隣に座らせられる。

 俺の正面に、ミーティアさんのお父さん……えっと確か、ダンドルフって名前だったよな。

 その隣には、どうやらジルリーネさんが持って来たのか、自前の服に着替えたミーティアさんが。


「――お父様……この方が、私たちを救ってくれた……ミオさんです」


「ど、どうも。すみません、遅れてしまったようで」


 座ったばかりだが、再度立ち上がりサラリーマンのように頭を下げる俺。

 やっべぇ、背中の汗。


「うむ。そうか、君が娘を救ってくれた少年か。ジルリーネに話は聞いたが……娘も、君をよく思っているようだな……」


「は、はぁ……」


 いったい何の話だ?

 俺は戸惑いと混乱がまだ抜けないらしく、理解が追いつかない。


「――だが、寝坊は良くないな」


 ごもっともで。

 ミーティアさんとは違い、濃い緑色の髪。

 そしてダンディなお髭は、威圧感いあつかんの効果抜群だ。

 うちの父さんとは違うね、まったく。


「お、お父様。それは先程説明しましたでしょうっ……ミオくんは――」


「分かっているさ。ミオ君、だったね……」


 ミーティアさんの言葉をさえぎって、ダンドルフさんが言う。

 俺はもう返事しか出来ねぇよ。


「は……はい」


「君が来るまでの間に、お父上……ルドルフ殿と話はさせてもらったよ」


「――!」


 話をした?それは……つまり。

 あの話は……もう終わっている?

 もう、済んだってことか……?


「――畑も見せて貰ったよ。そしてあの緑の果実……【スクロッサアボカド】だったか」


 全部、終わってんのか?

 俺が馬鹿みたいに寝てる間に……全部!!


「私も……目利きには自信があるつもりだよ。見た目はともかく……味は素晴らしいの一言だ。クリーミーでまろやか……君の姉君に聞いたところ、様々な料理のアクセントにもなるらしいじゃないか」


「は、はぁ……」


 ん?高……評価?

 あれ……?商談なんかしてないんじゃないのか?


「聞く所によると、どうやら君の功績こうせきだそうじゃないか……」


「え、いや……でも、これは」


 くっそ……考えがまとまらねぇ。


 どういう事なんだ?昨日の夜、俺は魔力の使い過ぎで気を失った。

 能力【豊穣ほうじょう】の使い過ぎによる、過剰な魔力不足……でな。

 そして翌日、目を覚まして来てみれば、ミーティアさんのお父さん、【クロスヴァーデン商会】の会長さんまでお越しになっていて……その会長さんは、【スクロッサアボカド】を褒めてくれている。


 俺さ、控えめに言っても……まったく理解が追い付いていないらしいな。

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