2-58【強引だったとしても2】



◇強引だったとしても2◇


 ミーティア・クロスヴァーデン。

 俺が奴隷どれいとして出会ったこの子は、心の底から本気だ。本気で俺たちを、俺たち家族が育てた野菜を……世界に売り出そうとしているんだ。

 彼女は涙目になりながらも、俺の父さんを見る。

 その青い瞳からは、たぎりのある意志を感じた。


 この子は本気だったんだ。初めから、自分が生きる道を探していたんだ。

 それをここで、この村で……俺たちの野菜に見出したんだよ。


「……お願いします!【クロスヴァーデン商会】は……父は、私が必ず説得します!!」


「……ミーティアさん」


 駄目だめだ、このままじゃあ……ミーティアさんの本気も、思いも……無駄になってしまう。

 それだけは駄目だめだ!本気で頑張っている人間が、こんな所で折れていい訳がないんだっ!


「お願いします!!お願い――えっ」


 バッ――と、ミーティアさんは振り向く。

 俺にだ。俺が、テーブルに着くミーティアさんの手を、がっしりとつかんでいたからだ。


「ミオ……くん?」


「……」


 俺は無言で立ち上がった。

 父さんは言った……口出し無用?いいよ、口は出さない。


 ――だが、手は出す!!


「……ミオ。どうした?」


 悪いな、父さん。俺は、どうやら夢を追いかける人間が好きらしい。

 野望を持った人間が好きらしい。

 俺が、持たないからかな……それを、さ。


 俺は左手でミーティアさんの手をにぎりしめ、右手をポケットに突っ込んだ。

 そして取り出す――今日食べて、そのままになっていた、アボカドの種だ。

 もう乾燥はしていて、汚くはないぞ。


「ミオ?……それはアボガ、いやアボカドの種だな?」


 ああ。そうだよ。


「ミオくん?いったい何を……」


 ミーティアさんもキョトンだ。

 そりゃそうだ、俺の勝手だもん。

 少し強引だけど……いや、強引だったとしても。


 俺は、その手に乗る種に――【豊穣ほうじょう】を使ったんだ。





 優しくも、力強い光だった。

 ミオくんの右手から強く、強くかがやく光は、夜の家中を照らしていた。

 おどろいていた。私も……ミオくんの家族も、全員だ。


 きっと、ミオくんがこんな事を出来ると言う事を、誰も知らなかったんだと思う。

 ミオくん自身、隠していた可能性もある。

 そしてそれを……私がさせてしまったんだ。


「ミオくん……」


 光は、ミオくんの手の上に乗る種に注がれている。吸収に近いかもしれない。

 そして……にょきりと、種から芽と根が生え出たのだ。


「……え!!」

「……っ」


 土もない、水もない……ミオくんのてのひらの上で、だ。


「……」


 ミオくんのお父さま、ルドルフさんは声も出ない。

 別の所にいたお母さまも、お姉さんも……別の部屋から見ていたであろうレインさんも妹さんも……きっと同じなはずだ。


「ミ、ミオくん……それは」


「これが。この果実を手に入れた方法だよ、父さん……ごめん。皆で見に行くって言ったけど……本当は生えている場所なんてないんだ。木があるのはたったの一本……僕のこの魔法で急成長させたんだ。そしてその木から取れたのが、昼に食べたものなんだよ」


 魔法。ミオくんはそう言った。

 そして私も気付いた……ミオ君が、誰のために……その力を見せたのかを。

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