2-57【強引だったとしても1】



◇強引だったとしても1◇


 自信はある……そう言ったミーティアさんだが、商談や交渉がそれだけでスムーズに進む事など、余程の信頼関係でも難しい。

 それはきっと、本人だって分かっている筈だ。


 事実、ミーティアさんの膝の上……強くにぎられた拳は、緊張と不安によるものだろう。


「いや……それでは話になりませんな」


 父さんは首を振り、交渉にならないとアピール。

 当たり前だな。前世では営業とかはした事はないけどさ、これくらいは俺でも知ってる。

 信頼関係が完成された間柄でもなく、まだ知り合ったばかりの少女。

 そう、少女だ……そんな自分の娘と同じ年の、少しだけ大人びていると言うだけの少女なのだから。


「僕……いや、私はねミーティアさん」


「……はい」


 父さんの雰囲気ふんいきは、もういつもと全然違う。

 頼りない顔も、情けない姿もない。

 一人の経営者、そして一人の親として、ミーティアさんを見てるんだ。


「私はね、息子……ミオに言われたから、こうして君の話を聞いているんだよ?わかるかい?」


 正規の交渉なんてしているわけではない……そういう事だ。


「……」

「父さん、それは……」


 確かにその通りなのだが。

 それを言ってしまうと、まるで初めから話を聞く気が無いと言っているようなもんだ……もう少し、チャンスをくれないか……父さん。


「いや、ミオは黙っていなさい。父さんは経営者として、ミーティアさんと話をしているんだ。同席は許したが……口出しは許さんぞ?」


「――ぐっ……はい」


 正論パンチだよ……畜生ちくしょう


「……」


 ミーティアさんもうつむいてしまってる。

 くそっ……俺には何も出来ないのか。


「――申し訳ありません。子供のお遊びと、思われていたんですね……」


 ミーティアさん!?その顔は……泣くのこらえてる感じにも見える。

 いや……違う。これは、悔しいんだ。

 父さんに、遊びだと思われていた事が……泣くほどの屈辱だったんだ。


「――ミ、ミーティアさん?」


「平気。覚悟はしていたから、でも……スクルーズさん!」


 ミーティアさんはいきおい良く立ち上がり、テーブルに両手をついて、頭を下げた。


「――私は、遊びでやっているつもりはありませんっ!ふざけてもいませんっ!」


 青く長い髪をテーブルにらし、ミーティアさんは続ける。


「もし、私が遊んでいると……子供のままごと遊びだと思われていたのなら……本当に申し訳ございませんでしたっ!ですが……私、ミーティア・クロスヴァーデンは……絶対に――ここの野菜を……世界一にします!!」


「せ、世界一……?」


 隣国も……いや、隣町すら知らないこの村が……?

 世界一だって?


 この子は……いったい何を言っているんだろう。

 何を、思っているんだろう。

 俺は、知りたいと思ったんだ……この子の心内こころうちを、考えを……知りたい。

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