2-54【スクロッサアボカド】



◇スクロッサアボカド◇


 俺の案は、経営者である父さんにあっけなく採用された。

 おいおい、なんとも簡単だったな。

 スクルーズ、ロクッサ両家の名を入れ、喧嘩けんかにならない様に配慮はいりょし、クラウ姉さんがこだわったアボカドの名も残した。


 これで下準備はいいだろう。問題は、これをどこで育てるかだな。

 俺は、アボカドがどうやって育てられるのかを知らないんだ。

 前世でアボカドを見るのはもっぱらスーパーだったし、テレビで木にってるのは見たことはあるけど、育て方は知らん。


 能力……【豊穣ほうじょう】を試しに使ってみて、出来てしまったのがこの結果だ。その結果の中に、計算なんてどこにも……一切無かったよ。


 そんなアボカドの運用を考え始める面々の中、クラウ姉さんが俺に。


「ねぇミオ……このアボカド」


 そりゃそうだよな。気になるだろう、これを知っている身としては。


「え、うん……裏山で種を拾ったんだけど、それを植えて……魔法・・をかけたらこの実が出来たんだよ。クラウ姉さん……なにか知ってるの?」


 少し意地悪だな。ごめんなクラウ姉さん。

 あなたが前世でどんな女性だったか知らないが、この村の為だと思って我慢してくれ。


「いや……いい。ナイス」


 グッと親指を立てて、俺に向ける。笑顔で。

 サムズアップて……やっぱ好きなんだなアボカド。


 一方で、ルドルフ父さんとリュナさんの共同経営者は。


「問題は、生産する場所だな……」


「そうね……」


 父さんとリュナさんが、アボカドの扱いを真剣に考えている。

 ど、どうするかな……言うべきか?山の中(地中)ですって。

 いや、意味不明すぎるよな……だとすれば、俺が頑張るしかないか。


「――後で皆を連れて行くよ……裏山に木が生えているから」


「なに!?ほ、本当か!?ミオ……全然知らなかったぞ」


「……(じーーー)」


 こらこらアイシア。そんな目で見ないでくださいお願いします。

 黙って協力してくれ、頼むから!

 アイシアの視線に気付かないふりをして、俺は言う。


「うん、まだいっぱいあるから急がなくてもいいよ、子供の遊び場みたいな所だしさ……」


 なるべく急かさない様に誘導して……っと。


「そうか……なら、後でみんなで見に行こう」


 はい単純。サンキュー父さん。

 でも、これで俺は忙しくなるな。だって、ないものを作らにゃならんのだろ?

 皆に見せる為のアボカドの木を、大量にさ。


 まぁ種は洞窟に生えてる木から取ればいいから……問題は魔力をどれだけ使えばいいって事だ……い、一日で終わるかな……はぁ……不安だ。





 父さんたちの他に、俺はもう一人、アボカドを食べておいて欲しかった人物がいる。

 そう、ミーティアさんだ……【スクロッサアボカド】を名物にしたところで、売りに出さねば意味は無い。

 そこで救世主になるのが、大商人の娘だと言う……ミーティアさんって訳だ。


 俺はクラウ姉さんをともなって、集会所に向かった。

 アイシアも来たがったが、クラウ姉さんが邪魔だと言って断った。

 アイシアも、クラウ姉さんには弱い……というより怖いんだろうけど。


「あ、ミオくん……」


「あ、ポニーテール」


 ミーティアさんはなにか作業をしていたのか、髪を束ねていた。

 咄嗟に口にしてしまっていたが、それを聞いていたクラウ姉さんが。


「私もポニテだけど」


 なんかクラウ姉さんが睨んでくるんだけど……同じポニテだからって、姉さんが似合ってないだなんて言ってないだろ!思ってもねぇよ!

 ちゃんと可愛いから。


「えっと……こんにちは、ミーティアさん……ジュンさんとリディオルフさんも」


「……ええ、こんにちは」

「うーっす」


「あれ……?ミオくん、どうしたの?それ……」


 やっぱり気になるよな。言って貰えてこちらとしても好都合だ。

 それじゃあ、試食してもらおうかな……この村の名物にする為の、【スクロッサアボカド】をな!

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