2-53【名物2】



◇名物2◇


 クラウ姉さんが綺麗に切り終えたアボカドはまな板の上に並んでいる。

 当然だが、醤油しょうゆなどの調味料などはないので、そのまま頂くしかない。


 俺とアイシアは食べたから、父さんたちに……あ。どうやらアイシアも食べるみたいだ。好きだねぇ。

 でも……アイシアとクラウ姉さん以外は恐る恐るだな。

 そりゃそうか。初めて目にする食いもんだし、すでに食えると聞かされていても、自分で確かめるまでは怖いわな。

 そう思えば、ウニとかを初めて食った人ってすげえ勇気だよな。


「では、頂こうか……」


 ルドルフ父さんを中心に、レギン母さん、リュナさん、レイン姉さんが、木のフォークでアボカドを口に運ぶ。

 クラウ姉さんも、素知らぬ顔で合わせていた。


 もういいって、好きに食えばいいよ。

 俺は追及してあげないからさ。


 そして。


「……これは……」

「あら、美味しい」

「……ええ、美味しいわ」

「~~~!……!!」


 父さん、リュナさん、レギン母さん、レイン姉さんの順だ。

 レイン姉さん、感動しすぎでは?


「……アボカド……」


 あっ。名前言っちゃったよクラウ姉さん……聞かないフリ、と思ったけど。

 耳聡みみざといのは……意外にも父さんだった。


「アボドか……いいな、アボド……」


 ピキーン――と、クラウ姉さんの眼光が父さんに向いた。


「――アボカド!!これは、ア・ボ・カ・ド!!間違えないで!!」


 お、おう……怖い。

 いるよな、こういうおっさんとOLのお姉さん。


「わ、分かったから……落ち着けクラウ。アボカドな、アボカド……」


 しかしさぁ、クラウ姉さんは本当にいいのか?

 咄嗟とっさに口に出しちまったんだろうけど、この村の人間は知らないものだぞ。もしかしたら、他の町や国にはあるかも知れないだろ?別の名前で。


 それを、ここでアボカドにしてしまったら……他の転生者にバレてしまうかも知れない可能性がある。この村に……転生者がいるってさ。


「今クラウが言った名前はいいな。色々と検討しよう……見た目はともかく、女性陣は美味いらしいしな……」


 森のバターはおっさんには合わなかったか。

 【豊穣ほうじょう】で旨味バフの乗った食べ物でも、万人受けはしないという事か。


 あと、それでいいのかルドルフさんよ。


「父さん。もしかしたら、他の国にも似たものがあるかも知れないよ……だから、そうだな……そうだ!【スクロッサアボカド】なんてどうかな?」


 俺が言う。もともと考えてはいたんだ。

 クラウ姉さんが言っちゃったアボカド……そのままだと芸が無さすぎるし、今言ったように他の国にもあるかも知れない。単にこの国になかっただけでな。


 だから、スクルーズ家とロクッサ家のアボカド……【スクロッサアボカド】、でどうでしょうか?


「おおっ!ミオ……いい事言うじゃないか!」


 さいですか。そりゃ良かったよ。

 これで色々と言い訳もできるってものだからな。

 こうして、この村の初めての名物……【スクロッサアボカド】が誕生したのだった。

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