2-52【名物1】



◇名物1◇


 この世界にも、俺が前世で生きていた世界……地球と同じように存在するものは多くある。それこそ、俺たちスクルーズ家が育てる野菜だな。

 名前こそ違ったりもするが……大根に人参、キャベツに白菜と。大量にある。


 不思議ふしぎと疑問はもたなかったんだ、初めはさ。

 でも今は違う。アボカドの種が落ちていた時点で、おかしいんだ。

 だって一つだけだぞ?それも山の中に、石ころのように落ちてたよ。

 しかも、【豊穣ほうじょう】なんて能力がなかったら、絶対にこんな場所では育たない品種だ。


 でも、これは村を有名にするチャンスだと思った。

 もともと上昇志向のうすい俺は、転生してもそれほど考えは変わらなかったんだ。

 ド田舎だってのもあったが、やる気起きなかったんだよな。

 勿論もちろん、転生した初めは思ったさ。勇者になって、魔王を倒して、お姫様と恋に落ちる。王道だろ?


 でも、ここは何もないド田舎だった……思い返してみてくれ、ドラ○エとかもさ、始まりの町に城がある事の方が多いじゃん?

 田舎スタートの作品でもさ、村を追い出されたり、村そのものが無くなったり、そんなイベントが発動してから、冒険のスタートじゃんか。

 な~んも起きねぇ。十二年間、一度起きたのは盗賊がやって来ただけ。

 後は家族の問題と、最近やっと自由が利くようになって来た事だ。


 だから俺も考えた。

 いっそ、この村を発展させたらどうだろう……と。





「それじゃ、クラウ姉さん、お願い」


「分かったわよ……ど、どう切るのかな~」


 わざとらしいって。知ってるんだからさっさとお願いします。

 え?なら俺がやれって?いや無理無理……変な注目とか嫌だし。

 何のために能力の事を家族にぼかしてると思ってんのさ。


「……姉さん?」

「クラウさん?」


 ほらクラウ姉さん、俺とアイシアが見てますよ。

 父さんも母さんも、レイン姉さんもリュナさんもいますよ。

 あ、妹のコハクは寝てるらしいよ。よく寝るな、我が妹。


「……」


 なるほど無言でやるのね。まぁいいけどさ。

 クラウ姉さんは、アボカドの実に縦にナイフを入れて、種を基準に回転させる。

 そのまま実を両方回して……パカッ――と。


 完全に分かるやり方じゃん、手慣れてんじゃん。

 そのままナイフのアゴを種に刺して……取り外す。

 はい完璧です。つか、あれだけ知らないって言っておいて、誤魔化ごまかさないんだな。


「凄~い!クラウさん……こんなに綺麗に取れるんですねっ!」


「……ま、まぁね。私にかかれば……余裕だし」


 目が泳いでおる。

 あ。もしかして、そこまでしてでも綺麗なまま食いたかったのか?


 クラウ姉さんは続けて、半分に切った実をまな板に置いて皮をく。

 おお!簡単につるっとけた。後はスライスするだけか。


「凄いね、クラウ姉さん……」


 もう、店のハンバーグに乗ってるような切り身だった。

 感想もさ……まぁうん、普通に凄いと思うよ。

 俺には、そこまで覚悟を持って野菜を切れないし……意外な所から身バレ、したくないからな。

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