2-51【知ってるだろ?知ってるよ】



◇知ってるだろ?知ってるよ◇


 俺とアイシアは、大量のアボカドをかごに入れた。

 俺は背負うタイプの物を、アイシアは手提てさげの小さな物だ。

 これは、【無限むげん】で整えた物で、自作という事にしてある。

 だから、えて不格好だ……えてだぞ?


「これくらいあれば、皆に食べて貰えるね!」


「……うん。だね」


 あーやばい。自然とアイシアの口元を見ちゃうんだが。


 【無限むげん】で山肌の入口を開けて、二人で外に出てから閉める。

 操作に慣れてきたら自動ドアみたいになって来たな。と言っても、操作してんのは俺だけどさ。

 気づかれないようにやったらそう見えるってだけで。


「じゃあ、行こうか」


「うんっ!!」


 いい笑顔で言うなぁ、もう気にしてないのかい?

 俺は更に気にしちゃってんのに……女の子の切り替わり、凄いね。





 時刻は昼前だった。

 当然村の皆も起きていて、それはうちも、アイシアの所もそうだった。


「父さん……」


「おっ、ミオか……朝からいなかったが、何処どこに行ってたん……だ?」


 俺の背のかごに気付いて、目をやる。


「うん、ちょっとね。これを食べてみて欲しいんだ。っと……」


 どさりと置かれるかごの中身を、父さんは一つ持って確かめる。

 触り、嗅ぎ、あちこちながめて。


「どこで……?」


「えっと……裏山、かな」


 種を拾ったのは裏山だし。うそではないから。

 あらかじめアイシアにも言い聞かせてある。

 そのアイシアも、少し遠くにいた自分の母親、リュナさんを呼んで来た。


「なになに~……もう、引っ張らないでって」


「だって!ママっ!凄いんだから……新しい野菜?だからっ」


 強引に引っ張って来て、リュナさんもしんどそうだ。

 俺は「お疲れ様です」と頭を下げ、リュナさんにもアボカドを渡す。


「食べてみて欲しいんです、これを……二人に。後、母さんと……クラウ姉さんにも」


 名指しです。クラウ姉さんには是非ぜひ食べて頂きたいんだよ。


 だってそうだろ?クラウ姉さんは、絶対に知ってるんだ……アボカドを。

 しかも長年の経験で、どうやらクラウ姉さんはベジタリアンだと分かっている。アボカド好きかも知れないって予測も出来るもんだ。

 正直言えば……反応が見たい!


「分かった。呼んで来よう……」


 父さんは真剣な顔で家に戻った。

 皆を連れてくるはずだ。





「こ、ここ……これって……!」


 開口一番、これだよ。はい黒確。

 クラウ姉さんはアボカドが好きです。


「知ってるの?」


 俺はわざとらしく、クラウ姉さんに聞いてみる。


「え?いや……は、初めて見るなぁ~」


 うそつけ。俺はクラウ姉さんが知ってる事を知ってるんだよ。

 だからさ……これの名前と、切り方とかをそれとな~く実演してくんないか?


「クラウ姉さん、これ切って見て?アイシアが切ってみたんだけど、ぐちゃぐちゃになっちゃったんだよ」


 先手を打っておこう。


「いや、でも……」


 お、渋るのか?


「大丈夫です!クラウさんなら切れますよっ」


 アイシアナイス~。


「あ~もう、はぁ……わ、分かったわよ……」


 そしてこの村に……初の名物が誕生する瞬間がおとずれるんだ。

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