2-46【絶対言わない!】



◇絶対言わない!◇


 アイシアにも困ったものだな……つまりあれだろ?朝から俺を張ってたって事だよな?こんな早くから、俺の動向をチェックしていた訳だ。


 いやいや……普通に怖えからな。

 確かにこの子は昔から早起きだ。早寝早起き。

 ロクッサ家の畑仕事を幼い頃から手伝う、親孝行者だよ。

 だがアイシアよ、そう言った行為はいただけないな。


 俺さ、前世ではずっと同じコンビニに弁当を買いに行ってたんだけどさ、そこの店員にストーカーじゃないかって疑われた事があるんだよ。

 しゃべりもしない、顔すら見ない女の子にだぞ?

 ひどすぎて三日間寝込んだわ。警察にまで質問されて、どれだけ腹が立った事か。

 事なきを得たからいいものの、下手すりゃ豚箱入りだぞ?


 そんな前世の悲しい思いを抱えながらも、俺はアイシアに言う。


「でもさアイシア、こんな朝早くから何をしてたんだい?今日は……ミーティアさんはいないよ?」


「――へぇ、ミーティアさんって言うんだ……ふーん、ふーん」


 目を細めて俺を見つめるアイシア。ちょっと待って、名前覚えてどうする?

 あ~いや、名前を覚えるくらい普通か。過敏になってたかも。


「それで、どこの人なの?何歳なの?身長はどれくらい?体重はどれくらい?家族構成は何人?」


「――いっ」


 ぜ、前言撤回だよこら!!

 完全にあぶねー奴になってるから!アイシア……絶対に駄目だぞ?

 頼むから落ち着いてくれっ!


「い、いいじゃないか、そんな事……関係ないんだから」


「か、関係ない?わたしが……?」


 アイシアは椅子から立ち上がり、ショックを受けたようにふらついた。

 いやだって、ないだろ?アイシアとミーティアさんにはさ。


「そうだよ。ないでしょ?」


「――ひっどい!!」


 何で!?だってアイシアとミーティアさんだろ?

 会ってもないのになんの関係があんの!!

 ま、まさか……やるのか?


「駄目だって……」


「――なにが!?」


「え……あ、いや」


 やべぇ。アイシアの行動を心配するあまり、つい口に出てた。


「と、とにかく……僕の事が気になって付いて来たのはもういいよ、怒ってもいないから……でもね、ここの事は秘密にしてもらうよ……いいね?二人の秘密、だよ?」


「ふ、二人の秘密・・・・・……!それは、うん!そこごめんなさい……」


 そこ

 じゃあ、どこが「ごめんなさい」じゃないのだろうか。


「……うん、いいよ。それじゃあ僕は作業をするから……帰りたくなったら言って?入口開けるからさ」


「うん……え、作業?ここで?」


「そうだよ、ここは秘密基地だから。訓練も出来るしね……魔法・・の」


 そうだ。俺はここで、能力【豊穣ほうじょう】の練習をしようとしたのだ。

 魔法という事にしてある俺の力は、基本的に土や木々を操る力に近しい。

 【無限むげん】で土を、【豊穣ほうじょう】で草木を操作して、それを操る。

 それ以外の力(金属や布類を操作)はなるべく見せない様にしているし、実際まだ誰にも見られてはいないはずだ。


「じゃあ、見てる。い〜い?」


「まぁ、いいけどさ、誰にも言わ――」


「――うん!!絶対言わないからっ!」


 パァ――と、花の咲いたような笑顔だった。


「はぁ、そうかい。なら、いいよ」


 大切な幼馴染の満面の笑顔に、俺は信じる事をまるで強制されるように、あきらめた感じで、アイシアの見学を認めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る