2-45【俺に出来る事】



◇俺に出来る事◇


 今、ガキの俺に何が出来るのだろうか。

 そんな考えと、やりたい事を考えなければならない状況。

 ミーティアさんが帰るまでに、いったい何が出来るだろうか。

 数日後には、昨日帰ったジルリーネさんが迎えに来て、ミーティアさんたち三人を連れて帰る手筈だ。


 あの時、ミーティアさんはここに置いてくれと言っていたが、あれだって咄嗟とっさに出たものであって、帰れるものなら帰りたいに決まってるよな。

 国が対応をしてくれないかもしれない……そう思っていたからこそ出た言葉だと、俺は思っている。


 だが、ミーティアさんがうちの野菜を高く評価してくれたのは本当だろう。

 ジルリーネさんだって、物凄く乗り気だったしな。

 「街にいるエルフの知り合い全員に配るぞ!」とまで言ってたからな……それはいいけど、頼むからミーティアさんのお父さんに渡すのだけは、忘れないでくれよ?


「……誰も……ついてきてないよな?」


 俺はふと、後ろを確かめる。

 よし……誰もいないな、流石さすがにこの時間だし、空はまだ白んできたばかりだ、起きてても……じいさんばあさんだけだろ。

 もし見られても誤魔化ごまかせるさ。


「よっと……」


 山間さんかん……とまでは言わないが、傾斜けいしゃがあるようなそんな場所。

 数年かけて自分で用意した、俺にしか操作できない……入口だ。


「――【無限むげん】」


 ゆっくりと、山肌に穴を開けていく。

 中は空洞だ……この表面は、紙のように薄く、そして硬い。

 触っただけでは、どう見ても土壁だ。


 中はすでに作ってあるんだ、入口を開くだけなら簡単なんだよ。


「よし……っと」


 入口を広げると、もうそこには通路があった。

 中に入り、【無限むげん】を再度使い入口を閉める。

 しかし……閉まっていく入口の細い隙間すきまに……人を見つけてしまったのだ。


「――ぁ」


「あっ!」


 そう。村で見つけた俺を、ひっそりと付けて来てたんだ。

 小さなキューブを首に下げた、オレンジ色の髪の、俺の幼馴染が。





「で、なにしてんの……?」


「……ご、ごめんなさい」


 俺が幼馴染……アイシアを責めたてる場所は、開けた山肌の中。俺だけの秘密基地だ。

 その中で木の椅子に座らせて、幼馴染に反省をうながす。


「本当に反省してるのかい?だって、僕を付けて来たんだろ?」


「し、してるもん……でも」


「でも?なに?」


 俺は強気だ。油断した訳じゃなかったんだけどな。

 アイシアに見られてしまっては仕方がない。

 ならば、共犯者にしてしまおうではないかと考えた。


「ミ、ミオぉ……顔が怖いよぉ」


 ここは山の中だぜ?

 暗いんだから、そりゃ悪い顔にもなるってもんよ。


「それで?どうして付けて来たんだい?わざわざこっそり、バレない様になんてさ?」


 目をらしながら、アイシアは言う。


「偶然、ミ、ミオをみかけたからぁ……」


 こんな朝早くからぁ?流石さすがに怪しすぎないかい、アイシアさん。

 というわけで、偶然見ただなんて言葉を俺は信じず、再度。


「んで、本当は?」


「――うぅ……だって最近ミオが、冷たいからぁ……わたしにぃ」


 上目遣いの涙目だけど、俺は流されないからな。

 前世でやられたら、キュン――とかしちゃうかもだけど。


「はいぃ?」


 冷たい?プレゼントあげたじゃないか。

 俺からすれば、結構な奮発ふんぱつだったんですけどね。


「だ、だってぇ!あの女の子、青い髪の!か、可愛い人……いたから、ミオの隣に……だから、声かけられなくて……わたしぃ……」


 声がどんどん小さくなっていくアイシア。

 もう最後らへんは聞こえなかったんだが。

 と、とにかくあれだ、青い髪の人って、ミーティアさんを見たって事か?

 それで隠れてまで、朝から俺を追いかけて来たのか……何というか、一途と言うか何というか、下手をすれば……いや、言うの止めよう――止めておこう。

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