2-43【暗い理由】



◇暗い理由◇


 俺とミーティアさんやジルリーネさんが、野菜の話で明るい一方……暗い方の雰囲気ふんいき駄々漏だだもららすのは。


 そう、他の二人……ジュンさんとリディオルフさんだ。

 特にジュンさんだな。彼女はやはり、国が動いてくれていなかった事がショックだったようだ。


「……」


「ひゅーひゅっひゅ~♪」


 しかしリディオルフさんはどうだろう。

 吞気のんきに口笛など吹いて……いや、絶妙に吹けてないな。


 この人を見る限り、ジルリーネさんが言った……国の事に関しても、まったく気にはしていないようだな。

 そ、それにしても空気読めてないなこの人……ジュンさんにらんでるぞ!


 そんでもって俺たち三人は、ジルリーネさんが感動の食事を終えて、集会所から出るところだった。


 だから俺は仕方なく、彼女の要望ようぼうを受けたんだ。


「――レイン姉さん。今から、ミーティアさんとジルリーネさんを畑に連れて行くよ」


「え?ま……今から?」


 分かるよ。また?って思っただろ……でも今回は、ジルリーネさんをメインに連れて行くんだ。

 どうにも野菜をそうとう気に入ったようで、どうしても産地を見たいんだとさ。


「うん……もう一回行ってくるよ」


「あ……わ、分かったわ。えっと、気を付けてね?」


 おっと、レイン姉さんも後ろを見てさっしてくれたようだ。

 もうワクテカだよジルリーネさん。

 え?死語?うるせっ!


「――それじゃあ、行きましょうか」


「ああ!頼むっ」


 本当に楽しそうだね……もう一度言うけど、野菜だからな?





 スクルーズ家の広大な畑(本日二回目)に来た俺たち。

 ジルリーネさんは子供のように両手を広げて、広大な土地に感謝をしていた。


「……【エルフェリーディア】様……全ての恵みに感謝を。森はまだ、我々を見離してはいません」


 な、泣いてるよ。


「【エルフェリーディア】……?」


 ちょっとした疑問だった。だって初めて聞いたしな。

 そんな俺の疑問を、隣のミーティアさんが答えてくれる。


「……エルフの始祖しそ様のお名前よ……?」


「へぇ……始祖しそか」


 なるほど。それで感謝か。

 でも、どうしてそこまで感動しているんだろう?

 俺が知らないのだとさっしてか、ミーティアさんは独り言のように言ってくれる。なんて気の利く子だろうか。


「エルフ族はね、大昔に森を追われたの。とある国との戦争に負けてね……」


 大昔か。森の妖精エルフって言うくらいだし、追い出されるのは辛いわな。


「もう百年も前になるけど……大きな戦争は種族そのものを激減させたの……」


 マジか。やっぱりこの世界、人間だけじゃなくて様々な種族が共存する世界なんだ。


「そうなんですね、知りませんでした……」


「そうなの?意外……」


 え……そ、そうか?田舎から出たこと無いし、歴史の勉強すらしてないからだよきっと。と言うか……そんな授業やってた記憶すらないな。

 精々、村の歴史と簡単な文字と計算だけだよ。

 マジで遅れてるからなぁ、この村。


 祈り?を終えたジルリーネさんが。


「……ああ、すみませんお嬢様。国に戻らねばならないのに、こんな我儘わがままを言ってしまい」


「ううん……いいの。気持ちは分かるし、こんなに素晴らしい畑があるって……知ってもらいたかったから。私も、今日知ったばかりなんだけどね……」


 目尻を拭うジルリーネさん。

 ミーティアさんはゆっくりと首を振って言葉を掛ける。


「いえ、それでも感謝です……お嬢様」


 打算半分、思いやり半分……と言った感じかな、と俺は思った。

 野菜を自国で売りたいという思いと、知り合いであるジルリーネさんの気持ちを考えてあげたいと言う思い。

 そんな思いが交じり合った行動だったんじゃないかと、思うよ。

 

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