2-42【気に入られたらしい】



◇気に入られたらしい◇


 俺とミーティアさん、そしてジルリーネさんは、休憩の為に集会所に来た。

 そこにはレイン姉さんとミラージュさんが、他の二人の客を連れて来ていた。


「あらミオ。クラウは?」


「あ~……うん。まだねてる」


 レイン姉さんも、「まったく……仕事もあるのに」とあきれていたけど、特にとがめるようなことは言わなかった。


 そして俺は。


「――あ、騎士様は……この後お国に戻るんですよね?」


「ん?ああ……わたしか」


 キョロキョロと周りを確認するジルリーネさん。

 いや、どう見てもあんただけだろ、騎士様。


「ふふふっ……慣れないのだよ。だから、そうだな……名前で呼んでくれないか?」


「名前ですか?それは、まぁ……構いませんけど」


 大丈夫か?エルフのおきてとかないよな?

 名前を呼んだり、肌を見たりとかさ……ゲームで見たぞ!そう、ゲームでな!

 なんのかは言わねぇけど、ゲームだよ!!


「そうか、ならそうしてくれ……君は、確かミオだったな。よろしく頼む」


 ジルリーネさんは手を差し出してくる。


「……」


「どうした?」


 だ、大丈夫か?触った途端とたん、「触れたな!結婚だ!!」とか言いださないよな?

 そんなハーレムアニメのような展開を想像して、それでも恐る恐る、俺はジルリーネさんの手を取り。


「よ、よろしくお願いします」


 そう返したのだった。

 それはもうぎこちない笑顔で。





 集会所の空気は、明るさと暗さが半々だった。

 明度じゃないぞ?雰囲気ふんいきだよ、雰囲気ふんいき


「……」


 俺とミーティアさんとジルリーネさんは、明るい……って言うと語弊ごへいがあるが、ジルリーネさんに食事を振舞ふるまっているところだ。

 どうにも昼ご飯を食べていないようなので、ついでにと言い出したのはミーティアさんだ……抜け目ないな、この子。


 そして、そんなジルリーネさんは一口野菜の炒め物を頬張ると。


「――う、美味い……何と言う美味しさなのだ……うぅ、うぅ」


 ご、号泣じゃん。そこまで気に入ったのか?

 って言っても、ただの野菜炒めだぞ?

 豚肉も調味料も何もない、味気のないものだ。

 日本文化だったら、明らかに醬油しょうゆをがばがばかけてるやつだよ。


「そんなにですか……?」


 気に入ってくれたならいいけどさ、過大評価じゃないのか?


「うふふっ……やっぱり、ジルリーネには分かるわよね。エルフだもの」


 エルフだから、分かるのか?

 ん?あーでも、昔読んだことあるかもしれん、エルフはベジタリアンだって。

 動物性の物はらないんだよな。確か。


 うちにもいるけど、一人ベジタリアンが。


「――ミオよっ!」


「――え?あ……はいっ」


「わたしは大層気に入った!この村の野菜は世界一だ!!もうここに住みたい!」


「は、はぃ!?」


 住む!?そこまで言うか!?異常だろ!!

 無理だって分かって言ってるよな!?


「しかし、そうも簡単に言えないのが……厳しい所なのだ……」


 きゅ、急に冷静になるじゃん。

 緩急かんきゅうに付いていけんよ。


「うーむ。だが……これは確かに、旦那様も気に入るかも知れませんね……お嬢様」


「――でしょうっ!?」


 ミーティアさんは前のめりだ。


 やっぱり、チャンスだと思ったんだろうなぁ、この反応は狙い通りかい?

 だけど、これは確かにチャンスだと俺も思う……スクルーズの野菜が、世界に飛び立つかもしれないんだ。

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