2-32【誰もいないけど】



◇誰もいないけど◇


 ミーティアさんの言いたい事は分かったよ。

 大商人の娘と言うのもうそではないだろうし、きっとうちの野菜をおろしたいと言うのも本当だろう。


 だが問題は、そんな事を俺に言ってもどうしようもないという事だ。

 父さんには言ってみてもいい……聞いてはくれるだろう。

 きっと、隣町におろすよりも金になるはずだし、何より距離が近い。

 そこが最大の利点だと思う。


「――うん、ミオくんのうちの野菜を、私の家……【クロスヴァーデン商会】で買いたいのっ」


 そうくるだろうな。

 しかし、それはこちらとしてもありがたい言葉なはずだ。

 だが、問題は――


「話は分かりました……父にも伝えておきます。でも、過度な期待はしない方がいいです」


「――え……ど、どうして?」


 そんな事、決まっている。

 子供同士の商談がまかり通るほど、商売は簡単じゃない。

 ましてや、ミーティアさんは現在、さらわられている立場なのだ。

 本人も分かってはいるようだが、見込みが甘い。

 これは、俺が前世の記憶……大人の精神を持っているから言える事であり、本当ならイエスマンとして援護してあげたいよ。


「僕たちは子供です。子供では、こんな事を簡単には言っても……実現させるのは難しい。それは分かってますよね?」


「……う、うん……分かってるわ、でも」

(きゅ、急に大人のような事を……)


 もし仮に、ミーティアさんの父親が乗り気になれば、話は大人同士で進めればいい。

 今は……何よりもまず先に、ミーティアさんたちを国に帰すことが先決なんだ。

 それが直ぐに出来ないのが、この田舎の痛い所だが。


「大丈夫ですよ、話はキチンと父にします……だから、まずは落ち着きましょう」


 いったい何をあせっているんだ?この子は。





 俺とミーティアさんは小屋で食事を済ませ、集会所に戻った。

 しかし……集会所には、誰一人として人影はなかったのだ。


「あれ……誰もいない?」


「ほ、本当ね……」


 レイン姉さんも、他の二人もいない。

 いったいどこに行ったんだ?


「――ミ、ミオーーー!」


 外から大きな声が……お?この声……ガルスか?

 俺のもう一人の幼馴染、ガルス・レダンだ。

 外に出て、あせったようなその声に返事をする。


「ガルス?どうしたんだい……?そんなに慌てて……」


 何とも分かりやすい感じに慌てて走って来て、肩を揺らしてぜぇぜぇとするガルス。

 これでも、最近は体力ついて来たんだよな、昔に比べてさ。

 なんたってクラウ姉さんにしごかれてるからな。


「ミ、ミオ……探してたんだぞ……はぁ……はぁ」


 いいから落ち着けって。なんだ?またクラウ姉さんにしごかれたのか?

 最近頑張ってるもんな、警備団に入るんだろ?

 頑張れ頑張れ。


「リ、【リードンセルク王国】の兵士が……今、来ててさ……」


 は?【リードンセルク王国】!?ミーティアさんの所の!?

 確か、奴隷どれいを保護した事……若い衆の一人が伝えに行ったばかりだよな?

 来るの早くないか?こっちは馬もないんだぞ!?

 計算上、早くても数日は掛かるはずだ。


「その兵士がさ、ど……奴隷どれいを返せって……言って来てるんだよっ!!」


 あーーー。これは……あれだ、すれ違いだわ。

 面倒臭めんどうくさい事になりそうだよ、まったく。

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