2-31【大商人の娘】



◇大商人の娘◇


 ミーティアさんの目線は、いったいなに目線なんだ?

 農作業に夢中の学生って感じでは……ないよな?


 年間の収穫量とか、出荷量とか……どう考えても業者じゃないか?

 俺もくわしくはねぇんだけどさ、野菜の売れ筋は父さんからも聞いてるし、家で食う野菜だって美味い。


 俺の能力――【豊穣ほうじょう】のおかげで育ちが異常だからって、父さんや従業員が適当てきとうやってるわけじゃないんだ。

 農家なりのプライドってのがあるだろうし、ミーティアさんにこんなめられたら、多少は嬉しいのではないか?いくら子供とは言え……さ。


「そろそろ行きましょうか……いい時間です。そこの小屋で昼食をして、帰りましょう」


「……う、うん……」


 ん?何か……言いたそうだな。

 でも言葉が出ない感じか……どうする?待つか……?

 いや、でもここではあれだしな。とりあえず小屋に行こう。


「こっちですよ」


「あ、うん……」





 レイン姉さんの作った野菜サンド。

 やっぱり美味いな……料理上手な所は、レギン母さんに似たんだろうな。

 クラウ姉さんも見習おうぜ?


「「……」」


 いや気まずい。なんで?

 空気が異常に重いんだが……俺、なにかしくじったか?


「……おいしっ!!」


 そんな中、ミーティアさんも野菜サンドを口に運ぶ。

 目を見開き、口元を上品に押さえて言う。


 ミーティアさんは、一口食べてから目をかがやかせて、野菜サンドにかじりついていた。口ではなく目でだけど、凝視とも言うな。


「……こんなに美味しいものが、他国にあるだなんて、【ステラダ】ともこんなに近いのに……」


 そうか、自分の国の野菜と比べているのか。

 でも、ふふふ……悪くないな。めてもらうのは。


「よし……決めたっ!!」


 え、急になに?

 そんな真剣な表情ひょうじょうで。


「ミオくん!!」


「――は、はい!」


 俺は持っていた野菜サンドを置いて、背を正してミーティアさんを見る。

 なんだか緊張するんだが。


「わ、私は……私の家名は……クロスヴァーデンって言うの」


 ミーティア・クロスヴァーデン……うん。いい名前じゃないか。

 でも、なんで急にそんな事を?


「……えっと?」


 文字通り、俺が戸惑とまどっていると。

 ミーティアさんが続けて言う。


「クロスヴァーデン家はね、【リードンセルク王国】の大商人なの……多分、国で一番だと思う」


 へぇ……凄いな。でも、その娘がさらわれて奴隷どれいにされたって……ヤバない?普通に国の問題になりそうだが。


「父は子供の教育に無頓着むとんちゃくで……私なんかがこんな事を言っていいのか分からない……でも、私……ミオくんの家の野菜、すごく好きっ!」


「あ、ありがとうございます……」


 父親は子育てに関わらない、仕事男タイプなのか。

 現代では厳しそうな家柄いえがらだな。

 でも……そうか。もしかして、ミーティアさん。


「ミーティアさん、もしかして……うちの野菜を?」


 そうか、だからあんなに、野菜や畑を熱心に見ていたんだな。

 収穫量やらを気にする訳だ。

 ミーティアさんは、スクルーズうちの野菜を、【リードンセルク王国】におろそうとしてるんだ。

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