2-24【子供の懸念と親の意地】



◇子供の懸念けねんと親の意地◇


 俺たちスクルーズ家の四人の子供たちは、それぞれ考えが違う。

 長女のレイン姉さんは、やはり長女だ。しっかりしている。


「――でも、お父さんにも考えはあるのでしょう?」


「それはそうだろうけどさ……」


 一方で、次女のクラウ姉さんは。


「私は直接話を聞いていたから少しは分かる……パパは村長に弱みをにぎられているわ」


 それだけは絶対ねぇよ。

 的外れな探偵みたいな事言うなよクラウ姉さん。


 村長の息子――オイ、オイシイ……だっけ?

 あぁ違う、オイジーだ。オイジー・ドントー。

 あいつは昔、母さんに言い寄って来てた。悪い手段で、だ。

 それが分かってからは、俺が村でオイジーを見かけた事はない。


 何でも、結構前に村を出てった……って聞いたけどな。

 あいつに何かをされない限り、父さんに弱みなんてないはずだよ。

 それを言うクラウ姉さんは、その時正座させられていたんだろ?下からのぞいてれば見方も違うって……きっとさ。


「弱みうんぬんは置いておいても、父さんが乗り気な理由は分からないな……共同経営の畑だって充分実入りにはなってるだろうし、わざわざ村長をやる意味は無いと思うけどね……」


 この意見は俺……長男のミオだ。

 俺は簡単に言えば、堅実派だろう。

 畑はうるおっているし、家族六人が暮らせる収入はある。

 借金の件は、父さんが胡坐あぐらをかいていたのと、村長の人柄の問題だ。

 それに俺がとやかく言えたことではない。ましてや、まだ十二歳だしな。


「えー。パパすごくないの?」


 三女のコハク……ママパパ大好きのうちの癒し枠だ。

 四月で八歳になったけど、とてもマイペースで明るい子だ。

 考え方は……まぁうん。すこやかに育てばいいのでは?


 とにかく、子供たちの考えはそれぞれだ。

 本人の意見を知らないといけない、おどされている、村長になる意味はない、パパすごい?だ。

 どうするかは父さん次第だが……いったいどうなるんだろうな。





 スクルーズ家の狭いリビングで、夫婦で二人……夜の晩酌ばんしゃくだ。

 ボソボソと聞こえる子供たちの声をつまみに、私は夫のグラスに葡萄酒ワインを注ぐ。

 商人から買った、とっておきの時に呑むものだ。


「……それで?村長にお返事はしたの?」


「ああ、明日しに行くよ……今日は、クラウもいたしな」


「ふふ……まったく、クラウにも困ったわね」


 私は笑う。それにつられて夫も、困ったように笑う。


「ははは、まったくだ……子供の成長は早いと言うが、レインもクラウも、あっという間に大きくなった。ミオだって、産まれたばかりだと思っていたのにな……」


「コハクももう八歳だしね……」


 本当に、子供の成長は凄い。

 親の考えなんて、きっと子供は知らないだろう。

 それでも、子供は親を見ている。

 だからしっかりしないと、親にも親の意地があるのだから。


「しっかり決めないとね……あなた」


「ああ。そうだな……子供たちの、為にもな」


 そうして……夫婦の静かな夜は更けていくのだった。

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