2-16【保護】



◇保護◇


 私……クラウ・スクルーズが、倒した敗残兵全員を縄で木に捕縛ほばくして、様子を見に来たら……弟が、半裸の奴隷どれいと抱き合っていました。


 どうしよう――殺したい。

 一見やばい言動なのかも知れないけれど、姉としたら当然だ――ええ、当然だわ。

 可愛い弟に群がる害虫むしは、どこぞの幼馴染だろうと、奴隷どれいの女だろうと許すまじ。

 でも、そんな弟……ミオの顔が、やけに嬉しそうに……楽しそうに見えて。

 ――余計よけいに腹が立った。


「――ミオ!」


「――はっひゃい!ち、違うしっ!」


 何よその返事……テンパりすぎでしょ?

 まるで家族にエッチな漫画でも見つかった中学生みたいよ?知らないけれど。


「まぁいいわ。こちらは片付いたけど……そっちに残っていた兵士は?」


「ク、クラウ姉さん……兵士たちは下だよ。魔法・・で閉じ込めたんだ」


 戸惑ったように、ミオは指でちょいちょい――と地面を指し、倒した二名の兵士がそこにいると示す。

 流石さすがだわ……でもその魔法・・?……いったい何の魔法なのかしらね。


「姉さんが倒した兵士の分も場所をとってあるから、連れてこようか」

(……どうせ全員気絶してるか死ぬ寸前みたいな感じなんだろ?それにしても、随分ずいぶん余裕そうだなぁ)


「――分かったわ。けど、その前に……いつまで引っ付いているつもりなの?」


「え?」

「――あ」


 ミオと奴隷どれいの女は、お互いに顔を見合わせて。


「「わっ……!!」」


 な、なによそのリアクション。

 互いに距離を一気に開けて、でも様子を見合う……付かず離れず見たいに。

 ムカつくわね……ミオは私の弟なのに。


「――行くわよミオ。私一人で十数人もの成人男性を運んでこいって言わないでしょ……?」


「え、あ……そうだよね。いやぁ、でもさ……」


 ミオが気にするのは奴隷どれいの三人だ……もしくはこの一人だけか。

 でも確かに、奴隷どれいたちをそのままにはしておけないけど。

 いや……でも気絶している奴らも起きる事はないだろうし……う~ん。


「はぁ……仕方ないわね。まずはそこの三人を村に連れて行きましょう……それから人手を借りて、兵士を片付ける」


「いや、そんな物みたいに……」


 苦笑いで言うミオ。

 その様子を……笑顔で見る青髪青目の女。

 あーやばい、手が出そうだわ。


 いや待て……?もしかして、【クラウソラス】ならバレないのでは?

 精神攻撃なら、そうそう気付かれる事ないでしょうから。


「……まぁいいわ」


「は?何が?」


「なんでもない、行くわよ」


 まぁ、今は・・止めておきましょう……この奴隷どれいたちも他国の人間なのでしょうし。


 あとさぁ……その女、こっちに話しかけてくるつもりは無いって事かしら?

 私の事、さっきから見てないわよね?


「――行くわよ。三人も……ついてきて」


「はいっ」

「……はい」


 ん?返事が足りない……?

 そうよね……あの女よね。


「……大丈夫ですよ。だから、ね?」


「は、はいっ」


 ねぇ……私には返事しなかったわよね?

 ミオに言われて、初めて返事したでしょ、この女ぁぁぁぁぁ!

 血が沸騰ふっとうしそうなほど、私は怒り狂いそうになっていたが……よく抑えられたものだわね……

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