1-67【男だろミオ!奮い立て!!】



◇男だろミオ!ふるい立て!!◇


 今俺が考えている事をさ、当てて見てくれよ……何人の人が俺と同じだろうな。

 異世界のような展開にワクワクドキドキ?

 自分の能力を知るチャンスの時だってソワソワ?


 違げぇよ……ドキドキもソワソワを両方さ、でも……ワクワクなんて一個もない。

 怖いんだ。怖ぇんだよ俺は……この土壇場どたんばで、足がすくんで来たんだ。


 命が失われるかもしれないという事実を目の前にして、ようやく気付いた。

 俺は、そもそもクソザコ一般人だった……ってことにさ。


 転生者?異世界人?なにそれおいしいの?

 心情的には、まさしくそんな感じだよ。


 俺は何も知らないまま、何の準備もしないまま飛び出したんだ。

 友達が危ない?家族が危ない?村が危ない?

 そんな事よりも、自分が危ないって事を考えていなかったんだよ。

 失敗したら完全終了……リトライなしの一発勝負。

 前世でも、そんな経験一度も無かった。

 受験じゅけんも緊張しなかったし、就職しゅうしょくだって楽々だった。


 だってさ、それほど興味きょうみがなかったんだよ。

 高校だって、別にそれほど偏差値の高くない普通の学校だった。

 会社だって、在宅ワークが中心の人と関わらなくていいものだった。

 だが、今は違う。

 俺は幼馴染を……ガルスを助けたいから、ここに居るんだ。


 隣にはクラウ姉さんがいる。

 彼女は俺と同じ転生者だ、きっと何とかできる自信があるから、こうしてここに居てくれるんだろう。

 しかし俺はどうだ?俺に何が出来る?


 いさんで出てきたはいいものの、俺にはまだ何の能力もない。

 あるんだろうけど、正直言って使い方が分からないんだよ。

 あのポンコツ女神が俺にくれた能力……【無限むげん】。


 無限。つまりは無限大……だろ?

 名前だけを聞けば、何かに影響えいきょうのある能力だって想像できる。

 でも、そのもとになる何か・・とは?

 体力?魔力?攻撃力や防御力?、速さに運?

 まさか際限なく生きれるとかか?


 思い当たるゲームのステータスやありえそうな事を考えても、今の俺には何もない。

 盗賊の根城なんて、まだ十歳の少年が来ていい場所じゃない。

 そんな事は百も承知しょうちだ。


 だけどさ、俺は転生者だ。

 前世の記憶がある分、村人の誰より知恵はあると思うし、知らない未知の知識だってある。

 それを駆使くしすれば、何とかなるだなんて……思い上がっていたんだ。

 実際、村の外を目の前にして、ここまで恐怖が身をふるわすことになるだなんて、誰が想像したよ、クソ……


 一方で、クラウ姉さんはもう準備万端だ。

 俺の覚悟を待っているんだろう。いいよな、能力の把握はあくできてる転生者は。


 クラウ姉さんを存分に利用?

 俺も考えたよ。最初はそうできたらいいって考えたさ――クズいよな、俺。

 でも、思ったんだよ……いくら転生者であろうと、能力が何であろうと、クラウ姉さんはクラウ姉さんだ。俺の家族のクラウ姉さんなんだ。


 だから、俺がやるんだ。

 恐怖にふるえてはいけない……ふるい立てっ!!

 俺は男だ。女の子を守る――男なんだっ!!

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