1-66【不思議な子】



不思議ふしぎミオ


 私の弟は、とてもかしこく、とても可愛い。

 異世界に転生した私の、最愛の存在だ。


 今、私はその弟と二人、村の外に出ている。

 盗賊を退治たいじするためだ。

 「子供に何が出来る」って、村の皆はそう言うだろうけど。


 この村では大人だって何も出来ない筈だ。

 そう言う場所だもの……何もない、退屈な場所。

 だけど、弟……ミオは違う。そんな気がするの。


「姉さん……今、何て言ったの?」


 好奇心こうきしんひとみがこちらを見ている。

 今さっき私が口にした、“アジト”と言う言葉……多少の英語が浸透しんとうしている程度のこの村では聞き慣れない筈だ。

 ミスっちゃった……アジトは、ロシアから来た外来語であって、英語でも、勿論もちろん日本語でもない。


「……えっとね……」


 どうしよう。この子は頭がいい。

 私が聞きなれない言葉を使った事に、興味きょうみを示しちゃったんだ。


 転生して今まで、十三年間。

 前世の記憶が戻ったのは……三歳の時。


 弟……ミオが産まれた年だ。

 その時から、何度も何度も試行錯誤しこうさくごをして、女神に与えられた能力を顕現けんげんさせる事が出来るようにまでなった。


 それでも変なボロを出さないように、寡黙かもくでクールな子を演じて来たけれど、やっぱり所々で素が出てしまう。


 私が説明に戸惑い、焦っているとミオが。


「あ、そうか……クラウ姉さんは商人から買った本をよく読んでいるもんね。僕の知らない言葉をしっている筈だよ……」


 と、自慢のお姉ちゃんを見るように笑いかけてくれた。

 ありがたい。寡黙かもく美少女を演じた甲斐かいもあるって言うものね。


「そ、そうね……だから色々しってるの。何でも聞いて」


 自信ありげに胸を張る私。

 よかった……ミオが私たち家族を大好きでいてくれて。

 変に疑われるより、よそおってでも上辺をつくろっておいた方が便利だしね。


「ミオ。あれが……あの納屋なやが、盗賊の居るアジト……拠点きょてんよ」


「う、うん」


 ミオが生唾なまつばを飲んだ。ごくりと音を鳴らして。

 やはり、怖いんでしょうね……それはそうよ。私だって、異世界転生者じゃなければ、盗賊なんて関わりたくないわ。


 だけど、これはミオの為……ミオの友達を助ける為、私は力を振るう覚悟を決めた。

 私が女神……名前は忘れたけど、何とかっていう女神からさずかった力。

 それを使えば、きっと簡単に決着がつく。

 例え家族に変に思われても、村で居づらくなったとしても。

 この子に辛い思いはさせたくないから。


「大丈夫?ここで……」


 「待っているか」と、聞こうとしたけど……ミオは私の手を取って、かぶりを振るった。

 口は開かない……それでもつたわる、ミオの思い。


「分かった……お姉ちゃんの言う事をよく聞いて……そうすれば、皆で帰れる。ガルスくんを連れて、帰ろう……そしてパパに怒られようね?」


 さぁ、私にとっても……転生して、異世界らしい初のイベントだ。

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