1-68【イベントステージ1】



◇イベントステージ1◇


「いい?行くよ?……私の言った通りにするのよ?」


「うん……分かった」


 俺とクラウ姉さんは納屋なやの裏まで到着していた。

 声が聞こえる。二、三……四人だな。

 ガルスの声は聞こえないけど……だ、大丈夫だよな?


「――いた。ガルスくん……無事だよ」


 今はまだ俺よりも身長のあるクラウ姉さんが、窓からこっそりと確認してくれた。

 そうか……無事か、これでひとまずは安心だな。


「ミオ。これを……」


 クラウ姉さんは、俺に何かを渡してきた。


「――え」


 ――は?ナ、ナイフ……!?


 ぐっ……痛ってぇ……なんだ急に。

 急に襲って来た胸の痛み……しかし、今更無理だなんて言えるわけはない。


「盗賊のだと思う、拾ったの」


 俺の顔は、どう見てもおどろいているだろうな。

 だってさ、さっきまでなかったよな?コレ。

 あ、クラウ姉さんが視線をらした……って事は、何も聞かない方がいいんだろうな、そうだろ?クラウ姉さん。


「あ、ありがとう……クラウ姉さん」


 受け取ったナイフは……うん。どう見ても新品だ。

 拾っては無いよ、絶対に。

 よく見る果物くだものナイフではない、どう見ても戦闘用のダガーだ。

 もしかして、これがクラウ姉さんの能力?まさか、武器を創り出せるのか?


 それにしても、なんでナイフを見るだけで胸が痛くなったんだ……?

 もしかして……前世で刺されて死んだから、か?

 勝手に身体にトラウマ植え付けられたって事かよ……最悪だ。


「とにかく、もし危なくなったらこれで自衛して……ガルスくんが縛られてるから、切れるでしょ?」


「そ、そっか……」


 俺は納得した振りをしておく、その方が都合もいいんだろうしな。

 それより……俺は上手くできるだろうか、いや……クラウ姉さんがこれを渡して来たって事は、俺も戦力にふくまれているんだ。

 だから、俺は俺の役割を果たさないと。


「よし、行くわよっ」


「――うん!」


 クラウ姉さんに貰った銀色にかがやくナイフを握りしめて……俺は、一歩を踏み出す。





 がはは――っとさわぐ盗賊四人の根城に、ふと訪問者が現れた。

 コンコン――と、丁寧ていねいに扉をノックして。


 その音に、この盗賊たちも慣れたもので、一瞬で馬鹿らしいさわぎを治めて身構えた。


「――誰だっ!!」


 男の一人が、叫んで返答をうながす。


「近くの村のものです……こちらに、幼い子供が一人来ていませんか?」


 声は女だった。綺麗な声音の、まだ若い声だった。

 盗賊四人は固まって、ひそひそと相談をする。


「女だな……」

「まだ幼くないっすか?」

「このガキのダチって可能性も」

「おい、お前が行ってこい」

「……了解っす」


 盗賊の一人が入口に向かい、他の三人は焚火たきび松明たいまつに移し警戒けいかいをする。

 意外としっかりしている。盗賊とは言っても、この手の展開は慣れているのだろうか。


「お、親分っ!ガキっす……でも、将来が期待できるめっちゃくちゃいい女だぜっ!」


「ほう……連れて来い!」


「へいっ!ほら、こっちに来い!!」


 座らされている少年、ガルスもその少女を見た……そしておどろき、声をあげそうになったが、何とか耐える。


「……!?」


 当然だが、気付いたのはガルスだけだ。その少女が幼馴染……ミオの姉、クラウだと。


「おらっ、そっちに行っとけ!」


 中央に連れてこられたクラウは男の一人に突き飛ばされ、ガルスの前にひざを着いた。

 そして……盗賊たちを怖がることもなく、ガルスをみてウインクをしたのだった。

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