1-57【好奇心の危うさ】



好奇心こうきしんの危うさ◇


 その日の夜……俺はスクルーズの姉弟してい三人部屋の自室で、長姉レインに勉強を教えてもらっていた。

 レベル的には小二くらいだな。正直言って全部分かる。

 この村の学業レベルは本っ当に低いのだ、きっと日本では考えられないだろう。


「――わかった!」


 最初から分かってたんだけどね。

 俺は知らない振りをして、レイン姉さんに教えてもらっている。


「そうだよっ!偉いねぇミオ~」


 頭なでなで……優しいもんだな、レイン姉さん。


「えへへ、姉さんの教え方がいいからだよ!」


 それに、可愛いしな。


「ねぇ、レインお姉ちゃん……私もミオに教えたいんだけど……」


「えぇ~、クラウは独特どくとくだからだ~め」


 俺も御免被ごめんこうむりたいな。


「……むぅ、じゃあいい」


 クラウ姉さんは素直にあきらめて、読書に戻った。

 その本って、たしか大分前に隣町から来た商人から買った本だよな……あれ?そう言えば、今月は商人が村に来てなくないか?


 あ!もしかして……学校でガルスが言ってた、盗賊が関係してるのか?


「あれ?……誰か来たみたい、お客様かしら……?」


「え?あ、本当だ。話が聞こえるね」


 誰だ?こんな夜に。

 俺たち姉弟していは部屋のボロドアを開けて、様子うかがうようにリビングに移る。

 そこには、文字通りお客様がいた。


「――ああ、ミオくん!」


「あ、ガルスの……お母さん」


 その客人は、幼馴染ガルスの母親……カレテュ・レダンさんだった。

 普通なら、近所の知人がおとずれた……そう取れるのだが。


 カレテュさんは非常に青い顔をして、父さんと母さんと話をしていた。


「えっと……」


 あぁもう、嫌な予感しかしない。

 ドクンドクンと鳴る心臓が、それをもう予期していたのかもしれないな……





 静かになった室内で、テーブルについたのはガルスの母カレテュ・レダン。

 そして父さんと母さん……最後に、俺だ。

 二人の姉は、俺の後ろで待機していた。


 空気は重い。

 事の重大さが、嫌でもつたわる。


「――そうですか、ガルスくんが……」


 聞いた話はこうだ。

 今日の夕方、家に帰って来たガルスは、一人コソコソと何か準備をしていたと言う。まるで誰にも見られないよう、こっそりと隠れる様に。


 そしてしばらくして、そのガルスがいなくなったのだと。

 初めは、外に遊びに出たのだと思い、気にはしなかったのと言う。


 しかし、夕食の時間になってもガルスは帰ってこなかった。

 カレテュが部屋に行って見ると、一枚の紙が置いてあった。

 そこには「村の外に出る」と……「盗賊を見てくる」と書いてあったと、カレテュは言う。

 そこで、まずは同級生である俺に話を聞こうと、スクルーズ家におとずれたのだ。


「そういう事なの……ミオくん、何か……息子の事、分からない?」


 正直、心当たりはある……でも、それを言っていいものか?

 俺がもしガルスに賛同していたら、きっと俺も帰って来ていないだろう。


 ――いや……そうじゃない。

 俺の知っていることは何でも話そう。

 それがきっと、一番答えに近道なはずだ。


「今日のお昼休み、ガルスとその話をしました。でも……」


 俺は本当の事を話す。

 うそなんかつかないさ、仮にも同級生……幼馴染が危ないんだ。


「――盗賊の話をしたのは確かにそうです、でも……大人に任せようって言ったんですけど」


「――そうね、それが普通よ。ミオは間違ってない」


 クラウ姉さんが同意してくれる。


「でもまさか……ガルスが一人で行ってしまうなんて思ってもみませんでした」


 俺は、本当に後悔こうかいをしていた。

 引きめるべきだった……でも、どうやって?


 あの時すでに、ガルスは盗賊を見に行くつもりだったんだ。

 俺が同意していてもしていなくても、一人でもだ。

 だが……それを今言っても、もう遅いのだから。

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