1-56【このド田舎に】



◇このド田舎に◇


 俺のもう一人の幼馴染にして同級生、ガルス・レダンに耳打ちされた意外な言葉に、俺はマジトーンで言う。


「おい――寝ぼけんなよ?」


「こわっ!いやいや……せっかくの幼馴染からの情報に、そんな事言わないでよ!あと寝ぼけてないからっ!」


 不思議ふしぎだよな。

 これだけの年数(十年)いい子の皮を被って来ていたくせに、こうやって素を出すことができる相手が出来るだなんて、思ってもみなかったよ。


「そんなこと言ったってなぁ……だって、盗賊?ここがどんな僻地へきちか、見てから言って欲しいよ」


「へ、へき……なに?」


 ああそうか、むずかしい言葉だもんな。

 十歳のガキにはきびしいのか。


「――なんにもない場所の事だよ。誰も近寄らないようなさ」


「あ~そうかも。って、自分の村をそんな風に言うなよ~」


 だって事実じゃん。

 それにしても、盗賊か……いるんだな。

 この世界に産まれて十年、初めて聞いたファンタジー要素かも知れん。


「それで、その盗賊がなに?」


 俺は半信半疑のままガルスに聞いた。

 正直、ほとんど信じていないよ。


「だから~、うわさがあるんだよ!村の近くに出たんだってさ」


「へぇー」


「聞けって~!」


 聞いてるよ。信用してないだけで。


「んで?その盗賊が何?」


「だから、倒そうよ!!」


 何言ってんの?十歳だぞ?

 盗賊だって普通に考えたら大人だろう。

 倒せるわけないだろ?なぁ?


「無理だよ。そのうわさが本当だったとしても、大人に任せた方が賢明だし、子供の力で倒せるわけないよ。分不相応ぶんふそうおうだ」


 それに怖いだろ?……折角おとずれたファンタジー要素だけど、こっちはまだ子供な上に、能力の事を一切把握はあくしていないんだ。

 試せる機会も無かった状態でいきなりそんなイベント発動すんなよ。

 せめてそれらを完全に理解してから、イベントを起こして欲しかった。


「えぇ……じゃあ見に行こうぜ!?」


 ガルスは「むずかしい事ばっか言って……」みたいな感じで俺を見て、倒すことから今度は見に行くなどと言い出した。


「だから……」


 こいつ……危険なんだって分かってねぇな。


「――あ!居たーー!!」


 俺がおバカな幼馴染を説得する前に、もう一人の幼馴染、アイシア登場。会話はここで終わりだな。聞かせられないよ、アイシアには。


「やぁアイシア、何処どこに行ってたんだい?」


「ちぇっ……つまんねぇの」


「どこじゃないよ!ずっと探してたんだからぁ!!」


 はいはい知ってるよ。俺はそれから逃げてたんだから。

 あれ?ガルス……?


「……ガルス?」


 いつの間にか、教室から出て行ってしまっていた。

 怒らせてしまっただろうか。

 でも、俺の方が正しいよな、今回は。

 だって……盗賊だろ?殺されたら、異世界転生も終了じゃないか。


 だから、俺は思う事が出来なかった……ガルスの好奇心こうきしんに。

 子供の好奇心こうきしんが、どれほどの危うさを孕んでいるのか、それを知らないままに……

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