1-55【急展開じゃね?】



◇急展開じゃね?◇


 次の日……俺は学校でアドルさんに謝罪した。

 勘違かんちがいとは言え、不快ふかいな思いをさせたかもしれないだろ?これから先もレイン姉さんを狙うってんなら話は別だが、俺も前世では立派な社会人だったんだ、謝罪の仕方だって心得ているさ。

 え?在宅ワークだろって?……言うなよ。


「――すいませんでしたぁぁぁぁぁっ!!」


 開口一番で、俺は土下座だ。

 昼休みで生徒は少なく、アドルさんが一人の所を発見した次第だ。

 今がチャンスだと、一瞬で行動を起こす。


「ミ、ミオくん……?どうし、いや……それより立ちなよ、床汚いぞ?」


 ふっふっふ……知ってるよ。

 だから、そこを目掛けてスライディング土下座したんだからな。

 綺麗な顔を汚して、誠心誠意せいしんせいいを込めた謝罪……受け取ってくれるよなぁ?

 先輩さまよぉぉぉ!?


「お、おいおい……そんな、やめてくれよ」


 ふふふ、我ながら汚い……精神的にも、物理的にもな。

 ――うぇ、口に何か入った。


 だが、効いているようだな。困ってる困ってる。

 昔にレイン姉さんをからかってた男とは思えない狼狽ろうばいっぷりじゃないか。


「ほら、いいから立ってくれ、流石さすがに良心が痛むよ」


「いいん……ですか?」


「はははっ、そもそも俺は怒ってなんかいないよ」


 そうだろうな。


「働き口を貰ったんだ、君たちスクルーズ家の皆には感謝しかないんだよ」


 そうだろう。そうだろう。


「でも僕は……先輩に失礼を」


「だからいいんだって。何も変わってないんだからさ……ほら、昼休みがおわるぞ?」


 意外と広い心だな。

 俺とは大違いじゃないか。

 あれ?……俺、もしかして心せまい?


「ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね」


 おっと、自分の心のせまさにおどろいている場合じゃないな。

 さぁ――握手あくしゅをしようか、アドルさん。


「ああ、勿論もちろんさっ!」


「――でも」


「……え?」


 俺はアドルさんの手をグイッ――と引っ張り、身長差も関係なく彼の耳元でつぶやく。


「――レイン姉さんに手を出すのは、許しませんからね」


 にっこり――と、とびっきりの笑顔で宣言した。

 十歳に圧をかけられる気分はどうかな……?


 詰まるところ、今後も姉には手を出すな……と。

 俺はそう言ったのだから。

 その言葉に、アドルは「ははは……」とかわいた笑みを浮かべる事しか出来なかった。





 まぁ充分に圧は掛けただろ。これで、姉さんを守る事が出来る。

 俺があいつに嫌われるって言うリスクは、言ってしまえば俺には関係ないんだからな。

 ただ、レイン姉さんもその気は無かったっぽかったし……もしかしたらここまでする事は無かったかも知れないな、今更遅いけどさ。


「……ん?」


 教室に戻ると、俺とアイシアのもう一人の同級生……幼馴染の少年、ガルス・レダンが、まるで俺を待っていたかのように、机に座りながら足をパタパタさせていた。


「――ガルス?」


「お、お~!ミオ!!やっと戻ったんだな!」


「なに?どうしたんだい?」


 ガルスが、なんともわくわくした様子で俺に耳打ちをしてきた。

 な、なんだよ……嫌な予感しかしないんだけど。


「……知ってるか?最近、近くに盗賊が出たんだってさっ!」


「……は?」


 と、盗賊……?この何も盗る物もないド田舎の近くに……?

 何その展開……想定外なんですけど。

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