1-54【俺ってシスコンなのだろうか】



◇俺ってシスコンなのだろうか◇


 前世の俺には……弟がいたんだ。十も年の離れた、生意気な奴だった。

 だから内心、姉や妹が欲しい……そう何度も思った時期もあったよ。

 まさか転生して、両方を手にする事が出来るとは思わなかったが、それは少し甘かったんだ。


 女系の家に生まれた男は肩身がせまい。父親もそうだが。

 しかし、長男である俺は姉と三人部屋であり、思春期に入る手前の子供たちが同じ部屋なのはどうなのだろうか、と首をひねる事もしばしばだ。

 最近は野菜の売り上げも上々だと聞く。そろそろ家を建てないか?オヤジ殿。


 そうして、俺を一人部屋にしてくれ。

 そうしてくれれば、一人の時間が持てて色々考えられる。

 特に転生の事だ。能力の事……十年で何一つ分かってないってのも、いかがなものだろうと思うだろ?


 心の中では何度も考えたし、試そうとも思ったよ。

 何とかっていう女神に貰った【無限むげん】と言う能力。

 これはどうやって使うのか、それとも常時発動型なのか……とかさ。


 【無限むげん】って言うくらいだから、初めは“魔力が無限むげんにある”、そういう風にとらえてたんだが、そもそも魔力って何?状態なんだよ。


 この村では魔法なんて見たこと無いし、魔物すらいないんだぞ。

 現れるのはたまに出る害獣がいじゅうくらいで、大きな被害を受けた事もない。

 異世界だって実感したのは、同じ転生者であるクラウ姉さんの件と、【女神イエシアス】の事くらいだ。


「――ミオ……?まだ起きてる?」


 時間は夜……声をかけられるという事は、同じ部屋にいるという事だ。

 俺は寝ながら考え事をしていたが、隣で眠るレイン姉さんが声をかけて来たんだ。


「うん……起きてるよ」


 俺はごろんと寝返りを打って、レイン姉さんと向き合う。

 クラウ姉さんに背を向ける形だ。

 まぁ……昼間の恥ずかしさで寝られる気もしなかっただけだけどな。


「レイン姉さん……今日はごめんなさい。変な勘違かんちがいをして、アドルさんにも迷惑をかけて……反省してます」


 だが後悔こうかいはしていない。もしまた同じことが起きても、俺は抗議こうぎするだろう。恥の上塗うわぬりは嫌だけどさ。


「ううん。いいの……私の事、心配してくれたんだよね……?お姉ちゃん嬉しかったよ」


 レイン姉さん……あぁ、ここまで言ってくれるなら、恥かいてよかった……いや、よくはないけどさ。


「でも、ミオって本当にお姉ちゃんたちが大好きね」


「――え?」


 え?なにどういう事?


「こういうミオのような子って、シスコンって言うんだって。クラウが言ってたわ……だから、私が結婚するかも知れないって聞いて、飛び出してくれたんでしょ?」


 おいクラウ姉さん。余計よけいな事をレイン姉さんに教えるなよ。

 俺はクラウ姉さんが転生者だって知っているんだ、だから変な事言ったら、俺にはつたわっちまうんだからな。だが、それでも。


「う、うん。僕、心配で……不安で、つい……カッとなって」


 レイン姉さんは、ふと俺を抱き寄せてくれた。

 甘い匂いと、ふんわり柔らかい感触が、たまんねぇ。

 ――っと……相手は姉だ。危ない危ない。


「ありがとう。ミオ……大好きよ」


「うん……僕もだよ、レイン姉さん」


 家族愛。俺は、これを大事にしたいと思っているんだ。

 前世で――躊躇ちゅうちょなくそれを捨てた、俺だから……

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