澪から始まる異世界転生譚・少年編～手違いで死んだ俺、女神に最強の能力と武器を貰うも、スタート地点がド田舎だったのでスローライフを目指す事にした～

１－３６【あれってもしかして】

◇あれってもしかして◇

　泣き止んだレインお姉ちゃんは、恥ずかしそうにしながら家路（いえじ）を行く。俺は背中だよ……心地良いリズムで揺られて、実に眠いんだ。

「ありがとね、ミオ」

「……ぅん」

　ん？何か言ったか？眠すぎて聞こえなかったよ、もう一度……

　そう思ったのも一瞬だった。薄（う）っすら開けた俺の目に、見知った人物の姿が、ほんの一瞬だけ映ったんだ。

「……！」

「わっ……ミオ？どうしたの～？」

　俺は一気に上体を起こして、レインお姉ちゃんごと倒れて行きそうになってしまう。そこはお姉ちゃんが耐えてくれたが、それどころではなかった。

「……」

「ミオ？」

　今の……クラウだったんじゃないか？

　俺より少し暗めの長い金髪、俺たちと同じグリーンの瞳（ひとみ）、六歳児にしてはませた、俺の二番目のお姉ちゃん。

　どこに行ったんだ！？何でこんな時間に一人でいたんだ！？

　まさか、俺を探して？ひいばあちゃん、ちゃんと伝（つた）えられなかったのか？

　いや……それならとっくに学校に誰かが来ている筈だ。

　別れ際はミラージュもいたし、色々と不自然だ。

　なら、探すしかねぇ。

「レインおねぇちゃん。おりる」

「え、だめよ……もう暗いし、遊べないよ？」

　違うんだよレインお姉ちゃん、違うんだ。

　でも、説明できる言葉が見つからない……どうすりゃいい！

「――やだぁっ！」

「やだじゃないよ～、だめなものはだめ、帰るの！」

　駄目（だめ）なのはそっちなんだって！いいから分かってくれ！！

「やだぁ！！やだやだやだやだやだぁ～！！」

「えぇぇぇっ！？ど、どうしちゃったの急に～」

　そりゃそうだろうけどさ、見えた気がしたんだよ！

　クラウの他にもう一人……誰かが！嫌な雰囲気（・・・・・）の女がいた、そんな気がしてならないんだ！！

「だ～め！！ほら、帰るよっ！」

　くっ！レインお姉ちゃん意外と力強ぇぇ！

　――いや、子供の俺が弱ぇんだ……畜生（ちくしょう）。

「うわぁぁぁん！やだやだぁ～、かえりたくないよぉぉぉぉ！」

　ごめんレインお姉ちゃん！この世界ではいい子でいるって決めてたけど、今は無理だ！クラウを探さないと！

　だけど……俺の想いは届かない。

　無情（むじょう）にも、いくら暴れても泣き叫んでも、俺の願いは叶ってはくれなかったんだ……無力だな、子供ってのはさ。

◇

　ここは――私の秘密基地（ひみつきち）。

　小さな林の中にある、私と……彼女だけ（・・・・）が入れる空間。

　三年の間に身体も大きくなって、入るにも一苦労だわ。

「……狭（せま）い」

「あっはっはっ……キミが大きくなったのよぉ。星那（せいな）……もう六歳だものね……」

　背後から声をかけてくる……不思議（ふしぎ）な雰囲気（ふんいき）を醸（かも）し出す女。

　私をその名で呼ぶこの女は、この世界の人間ではない。いや……むしろ人間ではない。

「……前世の名（・・・・）で呼ばないでくれる？」

「おっとっと、これは失敬（しっけい）したわねぇ……」

　女はわざとらしく指でバツを作って口元に持っていく。

　目元はニヤついているのが見て取れて、ムカつくほどにウザイ。

「そうそう、この世界では――クラウ（・・・）だったわねぇ」

　わざとらしく私の今世の名を呼び、気持ちの悪いまでの神秘的な美貌（びぼう）を持つこの女。

(あぁもう……本当に五月蠅（うるさ）い女神さま（・・・・）ね)

　私は心底そう思う……この世界に転生した、私――クラウ・スクルーズは。