1-35【泣きたい時は泣けばいいよ】



◇泣きたい時は泣けばいいよ◇


 ――唐突だけど、帰り道だ。


 学校からの帰り、俺は相も変わらずレインお姉ちゃんにおぶられている。

 そのレインお姉ちゃんは、目元を真っ赤にしてとぼとぼと歩いている。

 レインお姉ちゃんの前には、ミラージュがいる。

 が……ミラージュはほほが赤い。


 あの後さ、ミラージュは勇敢ゆうかんにも悪ガキ二人に殴りかかって行ったんだ。

 めっちゃ勝気だった。でも、分かるだろ?ケガしてるんだからさ。

 返りちだよ。ミラージュは悪ガキ二人にボコボコにされた。ポロッサ先生が駆け付けるまで、ずっと。


 レインお姉ちゃんは、何も出来ずにずっとオロオロしてて、泣いているだけだった。多分それを気にして、ミラージュに声をかけられないんだ。


「じゃ、あたしはここで」


「あ、ミラージュちゃん……」


「ん?」


 真っ赤なほほを痛そうにもせず、ミラージュはレインお姉ちゃんに笑いかける。言ってあげよう、レインお姉ちゃん。


「えっと、その……ま、またね」


「……うん。また……ね」


 ミラージュは一度も振り返らず、帰って行った。


 言えなかったか。

 なら、俺が言ってもいいものか?いや、駄目だめだよな。

 これは友情の問題だもんな、俺が言っちゃいけない。


「……う……うぅ……」


 いいよ。レインお姉ちゃん、泣こう。

 辛いんだよな。俺しかいないから、泣いていいよ。


 レインは両手で顔をおおって、ついにはくずれてしまう。

 その反動で俺は足を打った。痛てぇけど、絶対に言わない。


「ぅぅぅ……ひっ……うぇぇぇぇん……わぁぁぁん……」


 自分が情けないとかさ、腹立たしいとかさ。

 子供の時は自制も利かないし、感情の波が一気に押し寄せてくる時だってある。


 そんな時は、泣くに限るよ。

 こんな道端みちばたでも、いいさ。誰も見てない。

 本当はミラージュを助けたかったよな……オロオロするだけの自分が、嫌になるよな。


 自分のせいで怪我けがをしたと思ってるんだろ?

 でもさ、それは違うんだよ。

 ミラージュはさ、レインお姉ちゃんを助けたくて助けたんだ。

 友達だから、友達が困ってたから手を差し伸べたんだ。


 それに加えて、更に自分に対しても嫌な事を言われて、自分も腹が立っちゃって、あの男の子たちにかかって行っちゃったんだよ。

 だから、本当にかけるべき言葉は「ありがとう」だったんだけど……それも言えなかったんだ。分かってても言えなかったから、泣くしかないんだ。


「お姉ちゃん」


 俺は、せめてもの思いでレインお姉ちゃんの頭をでた。

 よしよしと、おぶられながら優しくでた。

 ホントはさ。ぶつけた足の甲がめっちゃ痛いんだけどな。


「あり、あり……がと……ありがと~……ミオ~」


 うん。今度はさ、それをミラージュにも言おう。

 せまい村の中だ、今後の人生……いくらでもチャンスはあるさ。

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