1-30【何してたか分かる?】



◇何してたか分かる?◇


 地獄のような就寝時間しゅうしんじかんから解放された俺は、今度はクラウお姉ちゃんの待ちせによって、外に連れられていた。


 いや、連れ去られたの間違いかもしれん……


 ここは子供たちの遊び場……砂場と木の遊具が二、三個しかないさびしい場所だ。

 言ってしまえば、公園とも呼べないだろうな。

 普段は朝から近所の子供たちがいるが、レインお姉ちゃんと同じで学校に通う子たちが出来たため、今は極端きょくたんに少ない。

 しかも、まだ本当に早朝だからな。


「……」

「……」


 気っまず……俺は、今ここにいる意味が分からない振りをして、必死に幼児を演じている。

 クラウお姉ちゃんは、丸太の上で俺をぬいぐるみのごとき抱えているよ。

 うん……まず逃げらんないね、これは。


「――ミオ」


「なぁに?」


 パタパタさせて、行き場のない不安を表す小さな足。

 べ、別に怖い訳では……いや、怖いわ。

 もうさ、上からかかる声が怖い。


「夜、ねんねしてて……」


 ああ~、やっぱそうだよな……のぞいてたもんね。


「起きてた?」


「……う~ん」


 考えるフリ考えるフリ考えるフリ。

 足をパタつかせて、どう答えるべきなのかを必死に思考する。

 六歳児に対して、三歳児が答えていい範囲はんいの性事情ってなんだ!


「……プ……ねんねしてた」


 思い浮かばねぇ!!一瞬“プロレスしてた”って言っちまうところだったあぶねぇ!

 クラウお姉ちゃんもさ、少し興味きょうみを六歳児らしくしないか?

 お人形さんで遊んだり、追いかけっこや虫取りとか、ままごと遊びでもいいよ。


「パパとママ。仲いいよね?」


「――うん!」


 そこは元気よく同意しておこう。純粋無垢じゅんすいむくでいいはずだ。


「ねんねしてて、聞こえた?」


「なにがぁ?」


 声だろうな!ママンのつやっぽい声だろうな!!


「……そっか、寝てたんだ……気のせいだったか」


 じ、自分で解決したのか?本当に不思議ふしぎな子だな……よく言えばマイペース、お姉ちゃんを悪くは言いたくないから言わないけどさ。

 簡単に言えば、寡黙かもくで大人しい、引っ込み思案系だと思ってたんだけどな……


「じゃあ、二人がしてたこと……なにか分かる?」


 ――ぶっ!! 直接聞くんかい!!


「わかんなぁい……」


 これは一択だろ。


「寝てたのに、何かをしてたのは知ってるんだ?」


 ……カ、カマかけやがったぁぁぁぁぁぁぁ!!

 やべぇ……やべぇどうしよ!!上見れねぇ、クラウの顔が怖くて見れねぇ!

 肩越しから俺を見る視線に、恐怖心がドックドクあふれ出てくる!!


 子供同士の会話って、こんな怖ぇの!?

 姉弟の会話って、こんなんばっかりなの!?誰か……助けて……――っは!?あ、あそこにいるのはっ!!


 俺は、その救世主きゅうせいしゅの登場に心が解放された気分だった。

 もう声をかけるしかねぇ!!行けっ!ミオ!!


「――あ、ミラージュおねーちゃんだっ」


 ミラージュ・ライソーン。レインお姉ちゃんの同級生だ。

 きっとまた、レインお姉ちゃんを迎えに来てくれたに違いない。

 ありがとう、救いの神よ。

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