1-29【無になった】



◇無になった◇


 ギシ……ギシ……ギシギシ……


「あ……は……んっ……」


 必死に声を押し殺し、官能かんのうに耐える女の吐息といきが聞こえる。

 普段の良妻賢母りょうさいけんぼうそのように、旦那の上で踊りくるうその様を……俺は。


 いや見てねぇよ!!見る訳ねぇだろ!!

 異世界転生したとは言え、実の親の情事だぞ!!本来の三歳児なら分かんねぇんだろうけどな!こちとら中身は三十過ぎの魔法使いなの!!

 見たくても見たくないんだよぉぉぉ!!


 ましてやグラビアアイドルも真っ青の、神スタイルの人妻のダンス!!

 血が繋がってなきゃ……いやなんでもない!

 とにかく、俺はエロ本とか同人誌とか、そう言うの見たこと無いタイプの人間だったんだよ!ハッキリ言って免疫めんえき無いの!

 好きなアニメキャラやマンガのキャラのそう言うの、見れないタイプなの!!


「……ふぅ」


 ふぅ……じゃねぇぇぇぇぇ!!

 隣で子供が寝てますけどぉぉぉぉぉ!?


「――あん♪ねぇあなた、もう一度……ねぇ、しましょう?」


 ――ママンよ、あなた性豪ドスケベだったの?


「……はは、仕方ないな……可愛いレギン、もう一度だけだよ?」


 ねぇぇぇぇぇぇ!!なんだよオヤジ!別人じゃないか!?

 普段の頼りなさはどこに行ったんだよ!めっちゃイケメンムーブ出してくんじゃん!!声だけ聞いてたらメロドラマ!!音楽鳴ってるんだよ頭ん中で!


 こ、こうなったら、寝返りでも打って……よっと。

 わざとらしく声も出してやるっ。


「う~ん……むにゃむにゃ」


「「――!!」」


 どうだ!!終われ!終わってくれ頼むからっ!


「ふぅ……大丈夫、寝てるよ」

「うふふ、いい子だから起きないでね?」


 ――くっそがよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!


「……!!」


 ――えっ!?……は?

 俺は背を向けて目を開いた。ドアの方にだ……

 でも、そこで目が合ったんだよ。誰だと思う……?


「……」


 ジッ――と見てる……親の情事を、静かに隠れて……ガン見してる子供がいる。

 マジで……?やっぱり、そういう子なのか?


 ――クラウお姉ちゃん。六歳児の興味きょうみってそこまでヒロイック?勇気ありすぎんか?


「……」


 あ、YABE……目が合った。クラウお姉ちゃんも気付いた……よな?

 だけど目をつぶっちゃう。だって怖いもん。


 そうして、俺は異世界なのに現実逃避した……くそむなしい。

 明日からどうしたらいいんだよ、教えてくれよ、女神さまぁぁぁぁぁぁ!!





 朝だ。ようやく朝だよ畜生ちくしょう

 俺は一人静かに起きて、そっと夫婦の部屋から逃げ出した。

 うん。二人とも裸だったよ。残当ざんとうだね。


「――おはよ」


「!?……は、はょ」


 背後から……声。


 ま、待ちせぇぇぇぇ!!おませなクラウお姉ちゃんが、俺を待ちせしてやがったぁぁぁぁ!!終わった!終わったよぉぉ!

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