【幼児】編

1-15【喋れるようになったよ~】



しゃべれるようになったよ~◇


 俺は今、とても気分がいい。

 俺が座るのは、長方形テーブルの短い所。

 長い所には、この世界での大切な家族が座っている。


 母親のレギン。美人でスタイルが神ってる、二十八歳の俺のママンだ。

 父親のルドルフ。イケメンだがどことなく頼りなく、ようやく育児の大切さを知った三十三歳の、俺のオヤジだ。


 長女のレイン。おっとりとしている心優しい女の子、先月八歳になった俺のお姉ちゃん。

 次女のクラウ。寡黙かもくで大人しく、でも芯のしっかりとしている女の子、六歳だ。

 そして俺、長男のミオ。異世界に転生した、日本の魔法使いだ。

 魔法使いって何かって?おいおい、知ってるだろ?言わせるなよ恥ずかしい。

 男なら、誰でもなれる可能性を秘めた素敵すてきな職業さ。

 しかし、大抵の男はそれを捨ててしまうんだ。

 三十歳になる前に……いや、何でもない。むなしくなるからやめようぜ?


 ともかく俺は今、ぞくに言うお誕生日席に鎮座ちんざしている。

 そう、誕生日だ。俺は……三歳になったんだ。





 夫婦のギスギスを、赤さんながらに体験したあのひと月の経験は忘れる事はないだろう。

 あれから、オイジーは滅多めったに顔を見せなくなった。

 どうやら自分が裏でしていた事が、父親である村長にバレたらしい。


 まぁ何というか、村長は普通にいいおっちゃんだった。

 わざわざ俺……じゃなくてスクルーズ夫婦に謝りに来たり、うわさはデマであると声高く宣言せんげんしてくれたりと、実に良心的な人だったよ。

 そんなこんなで、それからあっと言う間に二年と数ヶ月。俺は三歳だよ。


「――ミオ、誕生日おめでとうっ!!」

「おめでとう~ミオ」

「……うん。おめでと」


 スクルーズ家の女性陣が、俺をいわってくれる。

 それだけで産まれてきた甲斐かいがあったと言うもの。

 涙が出ちゃうね。


「ほ~らミオ!野菜のケーキだっ!砂糖さとうは高くてうちでは買えないから、甘くはないけどね」


 おいオヤジ。そんな家庭事情を誕生日に言うなよ。悲しくなる。

 それでも、俺は言ってやりたい。

 この世界での大切な家族に、心から。


「ありがとうパパ、ママ……おねぇちゃん!」


 うんうん。実にいい子だろ?三歳にしてはしゃべる方なんだ。

 そりゃそうさ、言葉も意味も、産まれた瞬間には知っていたんだ。

 顔と舌の筋肉が自由に動かせるようになれば、こっちのもんよ。


 え?しゃべり方?

 うん。まぁ変えたよ。だってせっかく転生したんだ、元の三十歳どうて……ではなく魔法使いの俺は一切捨てて、この世界でミオ・スクルーズとして生きていくんだ。


 一から始めてるんだし、ロールプレイしたっていいじゃない。

 俺が一年かけて決めたのは、ミオ・スクルーズ――自分のキャラ付けだった。

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