1-13【赤ちゃんは無力だった?】



◇赤ちゃんは無力だった?◇


 俺を抱くオイジーのクソ野郎と、それを悲しそうに見る母レギン。

 なんて無力なんだ畜生ちくしょう。せめて言葉を話せたら、コイツは駄目だめだって高らかに叫んでやるのに!


「ばぶ~、えへ、えへ」


 違うって……笑いたいんじゃないんだって。


「この子も、父親がハッキリと分からない内に……決めた方がいいですよ?」


「……」


 決める?おい何をだよ!ママンも、なんでそんな考え込むんだ!


 いや違う。レギンは自分の事を考えているんじゃない。

 俺や二人の姉、三人の子供たちの未来を考えているんだ……自分の事なんか、これっぽちも考えていない。

 子供たちの未来の事だけを考えて、レギンは……この男を受け入れようとしているのか?


 違う、そんなの違うだろ!……自分の未来の事も考えてくれよ!レギンはまだ二十五歳だ、三人の子供がいたとしても、まだまだ人生の選択は出来るはずだ。

 だからって、こんな男を選ぶ必要は……


 だけど、気付いてしまう。

 この村の中で生きていくしかない現状を。

 確かに、村長の息子であるこのオイジーと言う男と一緒になれば、多少の安定はのぞめる。

 好き放題うわさをしていた奴らも、村長の息子の嫁ともなれば、そうそう言えなくなるはずだ。

 でも、本当にそれは幸せなのか?


 そんな事、母親が決める事じゃない!ましてや父親でもない!

 子供には子供の未来がある。それは自分で決める事が出来るんだ。

 守ってもらう事だけが、赤ちゃんの出来る事じゃないんだ!


 俺は、オイジーの腕に抱かれている。

 そして、今さっき満腹になったばかりの、お腹がパンパンの赤さんだ!


 つまりどういうことかと言えば……そう、腹が痛いんだよ!!


 今の俺が出来る、最高の嫌がらせだ……赤さんが無力なだけの庇護ひごされる存在だと思うなよ!!


 くらえオイジー・ドントー!!

 赤さんにしかできない、大人には到底真似できない最高の必殺技だ!!

 大人でやったら、その時点で人生終了だよ馬鹿野郎!!


「……ふぐぐぐぐぐぐぐぐっ!」


「……あ?なん……だ?」


 最近便秘気味だったんでな、出るも出るぞ!

 赤さんの意地をその身で受けろっ!クソイケメン!


「――うわぁぁっ!!こ、このガキぃっ……!くそをらしやがった……汚ねぇ――あっ」


 両手で俺をかかげるその先には、レギンの姿が。

 ふふふ……オイジー、お前……子供嫌いだろ?

 子供は分かるんだよ。自分を好きな大人と、そうじゃない大人がさぁっ!!


「――オイジーさん。息子を返してくれますね?それとも、オムツをえますか?……その汚れた服と一緒に」


 クスクスと、今までにないレギンの表情かおに、オイジーは口元を引きつらせてやがる。


「……くっ。はい、ど、どうぞ……げ、元気なお子さんですね、まったく、流石さすがにスクルーズの息子なだけはある……」


 そう言い残して、オイジーは家から出ていった。

 そしてタイミングよく、外で遊んでいたレインとクラウが帰って来たのだが……その隣には。


「――あ、あなた……?」


 父親、ルドルフが……久しぶりに帰って来たのだった。

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