1-7【気持ちが萎えても腹は減る】



◇気持ちがえても腹は減る◇


 最後までにくまれ口を叩きながら、オイジーの野郎は帰って行った。

 どうせまた直ぐに来るんだろうけどな!

 それにしても、ロクッサ家のお嬢さん……リュナだっけ?

 そのお嬢さんはどんな子なんだろうか、ルドルフの元カノなんだろ?

 妻のレギンがかなりの美人さんだ。

 あれ……?も、もしかして……ルドルフってめちゃめちゃモテるのか!?


 頼むから、畑で変なことしてくれるなよオヤジ殿!!

 別の種をくなんてクソ寒いギャグは絶対に駄目だぞ!!


「ぁう、あうぅ……ばぁぁ」


 くっ。話せねぇ!当たり前だが、筋肉が未発達で舌が動かせん!

 頭で理解できても、身体がついて行かないんだ。

 笑ってないのに「ほらみろ、笑ってるぞ!」と言われるように、赤ちゃんは自分から笑う事はない。

 表情筋がヒクヒクしてて、笑って見えるだけだから!!


「ひっぃうぅ……あうぅぅ」


 ああ~、無理にしゃべろうとすると、変な声出る。

 ママンが笑ってくれるからまだいいが……どうすんだよ、この状況じょうきょう

 せっかくの異世界転生……スタート地点は何もねぇド田舎。

 しかも家庭環境かんきょうは、ママンを狙う間男のせいで不安だらけだ。

 も、もし……もしだぞ……オイジーの野郎にレギンが寝取られてしまったら、俺はこのクソ野郎をオヤジと呼ばにゃならんのか?


 赤ちゃんなんだからまだ分からないと思って貰っちゃ大間違いだ。

 全部知ってんだよ!全部見ちゃってんの!!何から何まで、朝から晩まで、全部見えてて理解もできてんだから!!

 夫婦の甘い時間も、意味の分からん喧嘩けんかも、夜の秘め事も全部!!

 身体が動かせないだけで、見えてるし聞こえてますからぁぁぁ!!


「……う、うう……うぇぇぇぇぇぇ」


「あらあら……お腹が空いたのかなぁ、お姉ちゃんが起きる前に、おっぱい飲んじゃおうね~」


 違うんだ。違うんだよママン。

 俺は将来を悲観ひかんしてんの……ママンの未来が不安でならんのよっ!!

 二人の姉も、あんな男が新しい父親になってみろ。

 百パーグレる!しかもあの男なら、娘に手を出すことも考えられそうで尚更なおさら怖い!!


 俺は乳を吸いながら、心の中で泣いている。

 血涙けつるいかもしれない。ああ、早く大きくなりたい。

 なぁ女神よ……なんで赤ちゃんの俺に自意識があるんだよ。

 大きくなってからって言ってたじゃん……転生に気付くのはさぁ……


「美味しいでしゅか~?」


 うん。多分美味うまい。俺は前世では粉ミルクだったらしいから、母乳は初めてなんだ。多分美味うまい。てか、少し前からそう思い込むことにした。

 だって赤ちゃんなんだもん。ばぶばぶ。

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