1-8【俺はアンタを観察する】



◇俺はアンタを観察かんさつする◇


 その日の夕方、父親ルドルフがほくほく顔で帰って来た。

 家族ひとの気も知らないで……よくもそんな笑っていられるな、まったく。

 仕事を上手くやっても、家庭が壊れちゃ無意味だぞ。


 そう考えた俺は、二人の間柄を修復しようと策に出る……別に壊れてはいねぇんだけどさ。

 丁度いいタイミングで、レギンが夕食の準備をしている。

 これはチャンスとばかりに、俺は行動を移した。


 そう……ガン泣きしてやったのだ。


「――おぎゃあああああん、あぎゃぎゃあぁっぁあ!!うにゃぁぁぁん!!」


 ひっくひっく!オラオラオラァ!!赤さん様が泣いてんよ!!

 ママンは忙しいぞ!ほらほら!オヤジ殿よぉ!俺をあやしやがれぇぇぇ!


 全身でアピールする俺を、ルドルフがあせったように抱えてよしよしとする。

 ちげぇんだよなぁ!もっと優しくだ!かごのようにやるんだよ!!そんなんじゃ誰も眠りゃあしねぇぞ!!


 ――はっ!ち、違う、そうじゃない!!

 つい赤さんの心を代弁だいべんしてしまった……違うんだよ。俺がしたいのはそうじゃない。

 せっかくレギンが台所で忙しくしてるんだ。ルドルフを探るチャンスだ!


「おーしおしおし、いい子だなぁミオは……だから泣き止んでくれよ~」


 俺はルドルフの胸元に顔をうずめて、クンカクンカと鼻を利かせる。

 赤さんなりの嗅覚きゅうかくを最大限に発揮して、オヤジの身体から女の匂いがしないかを確かめた。


 うん、まぁ……なんだ、草と土の匂いだな。農作業万歳ばんざい

 えっと誰だっけ……ああそうだ、リュナだ。リュナ・ロクッサだったな、確か。


 結論から言うと、ルドルフから女の匂いはしなかった。

 普通に汗の臭いと、農作業の過程かていでまとわりついた草や土の匂いだけだ。

 今日は浮気うわきをしなかったようで一安心だ。

 しかし安心は出来ない。オイジーの野郎はまだ何かをたくらんでいそうだし、そのリュナって元カノがルドルフに気がある可能性だって、なくはない。


 なにせルドルフは顔がいい。二人の姉も将来が楽しみになるほどの美形姉妹だ。

 え?俺?……いや、まだ分からんよ。この家に鏡なんてないし、自分の顔見たこと無いんだ。

 親だったなら可愛いって当然言うだろうし、言葉では信用が出来ない。


 あ、やべ……なんか急に不安に。

 どうしよう、せっかく異世界転生したのにブサイクだったら。


「う……うぇ……うぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


「おわっ!……ちょ、ちょっとミオ!暴れちゃ駄目だめだってっ!」


 だぁぁぁ!!身体が勝手に!泣き声と連動するみたいに動いちまう!!

 オヤジあやせ!せっせとあやすんだ!ほら、その無駄に美形な顔でいないいないばあっ!ってやれよっ!!赤さんの圧に負けんなっ!!


「……レ、レギンっ!!ミオがぐずった!助けてくれ……!」


 ……。……。……。……。

 はぁ……駄目だめだ。簡単にあきらめんなよ。

 お前父親だろ?もしかして、姉二人の時もそうやってママンに頼りきりだったのか?苦労が分かる……根気が必要だな、これは。

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