第37話 最後の救出へ
美須鋸太さんは、取り乱す様子もなく、重く、抑えた声で俺に言った。
「ニアは、円舞会に拘束されたようです」
「すみません、俺」
「切原永利君になら手を出せないだろうと油断した我々が悪いんです。その傷、痣、円舞会にやられたのでしょう?」
「は、はい」
鋸太さんは軽く数回頷いた後、ふぅ、と息を吐く。
「本当に申し訳ない。まだまだ子供の君達に重いことをまかせてしまったばかりに、こんな大怪我を負うだなんて」
「そんな、美須さんは第2倉庫にいるんです! 舞曲運送の第2倉庫って言ってました」
「そうですか。情報をありがとうございます」
鋸太さんは病院の駐車場に顔を向けた。
そこにはパトカーが、母さんの車の近くに停めて、何か話している。
遠くからでも分かる厳つい体格に、四角い輪郭。
「切原永利君、このまま真っ直ぐ行けば、君とお母様の安全は保障され、二度とこの町にくることもないでしょう」
「えっ、そんなぁ」
美須さんと友達になれたのに、助けられないまま別れも言えないなんて……ふざけてる。
荒川さんは手を出さないって言ってくれた。
でも、このまま町から出るなんて、とても考えられない。
ポケット越しに美須さんの大切なカッターナイフに触れる。
返さなきゃ……。
「これ以上君を巻き込むわけにはいかない。短い間でしたがニアと友達になってくれてありがとうございます」
鋸太さんは、さぁ行けと駐車場へ手を伸ばす。
友達、美須さんはこんな俺と友達になってくれたんだ。
お互い誰にも言いたくないこと曝け出した。
美須さんの笑顔に何度も助けられた。
危険だから、君は子供だから、大人しく逃げるなんてできない。
美須さんのヒーローになりたい……あの動画やデパートの特撮ヒーローみたいに助けなきゃ……約束したんだ。
一緒に戦うって!
指先に力が入り、俺は制服のズボンに皺を寄せた。
「俺も連れて行ってください! 美須さんを助けたいんです!!」
「……ヨーちゃんと同じことを言うなんてね」
「黒野さん?」
高級セダンのシーマの扉が開く。
後部座席には、俺を睨みながら待ち構えている黒野さんが……いた。
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