第24話 ヨーちゃんの話

「い、いや、ちょっと声かけただけじゃん」


 睨めば、後ずさるように引く男。

 ちょっと声をかけた? その前からジッとスマホ越しに見ていたくせに?

 点火してしまった苛立ちを抑えられる術なんて持ち合わせていない私は、そいつの襟を力いっぱい手繰り寄せた。

 喋りたくもない。驚き怯えた男の手からスマホを取る。


「ちょっ!」


 スマホはロックが解除された状態で、カメラが開いている状態。フォルダには大人しそうな女子ばかりの写真が保存されている。

 ナンパだけじゃなく盗撮まで……。

 後ろにいるクラスの友達にもスマホを渡す。


「待ち合わせからずっと撮ってるよ! この変態」

「あ、いやぁ、その後ろの景色をぉ」

「嘘、こいつ女子の盗撮ばっかしてる! 警察呼ぶから!」


 警察って聞いた途端顔を青ざめていく。


「やややや、ちょっとホント勘弁してよぉ」


 目を潤ませて両手で拝む男。私は振り上げたくてたまらない右拳を抑えるので必死。

 捕まりたくないなら、こんな街なかで注目を集めたくないなら、最初からやらなきゃいい。


 警察に引き渡して、それから経緯を説明。

 15分ほどで開放されて、


「曄ちゃんがいて良かったぁ」

「ホントホント、ナンパかと思ったら盗撮までしてんの、よく分かったね」

「うーん、まぁちょっと変なのがいるなぁって感じがしてたから」


 微笑んで見せた。


「でもすごい気迫だったじゃん、普段と違うからちょっと驚いちゃった!」

「さすが、黒野家の血筋ってやつ?」

「ううん、必死だっただけ」


 普段って何? 血筋って何、私のことなんて知らないくせに。

 退屈なわけじゃない、こうしてクラスの人と仲良くするもの大切なことだから、義務だから。

 私は……ヒーローの娘だ。



 デパートとか遊園地とかの特設会場でやってるヒーローショーに、父親はヒーロー役で出演していた。

 顔こそ知られていないから地味だろうけど、色んな戦隊のヒーローを演じてきた人で、私も母親と見に行ったことがある。

 まだそれだけならいい、最悪なのは祖父や従兄弟、叔父達が警察官。

 ちょっと相手とやんちゃしただけで怒ってくる。


『曄! 〇〇さんのところのお嬢さんをなんで泣かせたの!』

『男の子たちと取っ組み合いのケンカなんて、しかも怪我なんてさせて!!』

『黒野家は警察が多い、君のお父さんはヒーローだったんだぞ、きっと今頃泣いてるよ』

『警察一族に不良がいると知られたら恥ずかしくて堪らん』


 耳を塞ぎたくなるお説教ばかり。

 別に好きでケンカをしたわけじゃない、向こうが個人の趣味を馬鹿にしたから腹が立っただけ。

 ちゃんと口で説明した、それでも聞き入れなかったから結果ケンカになっただけ。

 ヒーローなんて……大嫌い。


「曄、こっちの新しいショップ行かないって平気? なんか、遠く見てるけど」

「やっぱり、さっきので大変だったんじゃない? もう少し休憩する?」

「ううん大丈夫、はやく行こう」


 正義なんてくだらない。

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