第22話 隠した記憶
「わたしこの曲すきー」
「MVのダンスもカッコよくて、しかもセンターにいる子が超好きで」
教室の隅っこで、父さんが置いて行ったイヤホンと携帯できるCDプレーヤーをつけて、4分の3拍子が流れる心を落ち着かせるワルツを流した。
家で聴くと、母さんがどこか悲しそうな表情を見せるからなかなか聴けない。
だから、学校の休憩時間にいつも聴いていた。
隣の席にいる女子2人の会話が耳に流れる音より大きくてうるさかったのも覚えてる。
音量を上げ過ぎると耳によくないし、外に漏れてしまうのも嫌だったから、我慢していた。
「切原くん、どんな曲きいてるのー?」
一瞬のことだった。右耳を塞いでいたイヤホンが解放されて、涼しくなった気がしたのと同時に焦りが生まれる。
手を伸ばそうとした時には、イヤホンを耳に寄せていて、女子の少し戸惑った表情と、
「うわ……なにこのトロい曲、なんか、見た目通りだねー」
その時はなんにも感じなかった。
家に帰って、1人になった瞬間……すごく抉られたような、気持ち悪いような、ぐちゃぐちゃになって、悔しさで涙が出た。
もう学校に行くのが嫌になった。
女子の話ってすぐに広まっちゃうから、明日行けばみんなに馬鹿にされるんじゃないかって不安で、眠れなかった。
それからだ……もう放課後に遊びに行かなくなって、母さんの悲しそうな顔してるのも気にしないでワルツをもっともっと聴くようになったのは……――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。