第19話 直接か回りくどくか
「機種はどちらに」
「なになにどう違うの? どんなことができるの?」
美須さんは、店員に目を輝かせて食い気味に訊いている。
交差点近くのカラオケ店に、どうしてか俺と美須さん2人で入ることに……。
カラオケを提案したのは俺だけどさ、家を回避した結果、2人で話したいってことを尊重した結果だから!
「永利君、永利君、時間はどうするだって」
「え、あ、ど、どうしようかな」
「でしたらフリータイムはいかがですが、お好きな時間に出られ」
「フリータイムってなに?! あ、ドリンク飲み放題ってなに? ビッフェ形式ってこと?」
また食いついてる。
自動ドアの開く音が聴こえて、もしかして他のお客さんが来たかと思い後ろを少し覗く、と……――。
「やっ、切原君」
小さく手を気軽な挨拶みたいに振って、首にヘッドフォンをかけているのは、円先輩。
パーマじゃないゆるやかにカーブしたミディアムヘアに、凛と背筋を伸ばして意味深いような口調。
まさかこんなところで会うなんて……ヒトカラが趣味なのかな。
「まど」
「アーッ!」
挨拶をしようとした俺の声を遮るほどの甲高い声、美須さんは円先輩の存在に気付いた。
部屋番号と時間が表記された紙が挟まっている黒いバインダーを持っている。あとドリンクバーのグラスも2人分。
「やぁやぁ初めまして美須さん、お目にかかれるなんて光栄ね。せっかくだし私も一緒にいい?」
「いつも永利君がベンチで食べてるのを邪魔してる先輩! 今日は永利君と大事な話があるからお断りです!」
美須さん、窓から見てるんだ……なんか、凄く恥ずかしくなってきた。
円先輩は、ふーん、と相槌を打つ。
「いやぁ実は私もあるんだな、これが」
目を細める円先輩に、美須さんは小動物のように唸る。
「あ、あの、とりあえず店員さん困るし他の人の迷惑にもなるから、行こう?」
「うー……話が終わったら出て行ってください」
「うんうん、ありがとう」
結局3人で部屋に入ることになった。
2人きりになるよりは……安心、かな。心臓が高鳴りすぎておかしくなりそうだったし、円先輩がいて良かったと思ってしまう。
でも2人とも大事な話があるって、一体何の話なんだろう。
「切原君は真ん中に座る」
「え、は、はい」
ソファの真ん中に流されるまま座り、美須さんは右に、円先輩は左に座る。
あれ、俺……女子2人に挟まれてる?
「それで、一体どんな大事な話ですかっ」
円先輩に対して好意的じゃない刺々しい態度を取る。できたら仲良く話をしてほしい。
「直接か回りくどくか、どっちがいい?」
「え、えーと」
「ハッキリ言ってくださいっ」
円先輩は頷くと、突然笑みを消して鋭く冷たい表情を見せた。
「悪いんだけど美須ニア、切原永利としばらく離れてくれる?」
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